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恋愛小説「ヘヴンズDream」15

誰にも相談できないこと3

 誰にも相談できる筈がない。どうすればいい? 悪魔のコスプレ状態になることを、一体誰に相談すればいいというのだろう。
 街はすっかりクリスマス一色で、誰もがフワフワキラキラしている中、わたしは、「ローマン」でクリスマスツリーの飾り付けをしながら、独りどんよりと考え込んでいた。天使のオーナメントを手に取ると、セイの顔が自然と浮かび、更に気分が澱んでくる。悪魔の姿でクリスマスなんて、想像できない程に最悪最低なクリスマスだ。

─ きっと、佐智と隼人は…

 二人の楽し気なクリスマスシーンを想像すると、もやもやっとした憎しみが発生したことに気付いて、慌てて違うことを考えた。
 暇な店内に、マスターと二人でのほほんと過ごしていた時、扉の呼び鈴が鳴り客が入ってくる。

「あれっ、来てくれたんだ」

 店の入り口に、香苗の姿があった。

「うん、来てみた」

 彼女は、チャコールグレイのコートを着て、口許に微笑みを浮かべて立っている。遠慮気味に少し所在無さ気に立ち尽くしていた彼女の腕を取って、ソファ席に案内すると、マスターがわたしに休憩を取るように合図してくれた。

「場所、分かった?」

 わたしはエプロンを外して香苗の前に座る。

「うん。すぐ分かった。いい感じのお店ね」

 店を見回した彼女は、コートを脱ぎながらいつもの調子で淡々と話す。
 選択授業の時、香苗に何度か「ローマン」でバイトをしていることを話したことがあった。それを覚えてくれていたのだろう。これまで彼女と校外での付き合いがなかったが、店に来てくれたことで少し距離を近く感じた。

「水木さんは、卒業制作進んでるの?」

「どうして?」

「バイトをする時間があるんだなって思って」

 声のトーンを落とした彼女は、マスターに気を遣いながら聞いてきた。

「あ、大丈夫。もうだいたいの目処はついてるから」

「そうなんだ。やっぱり水木さんはすごいな。わたしなんか、全く進んでない…」

 彼女は肩をすくめた見せた。
 マスターが、店の自慢の珈琲と手作りクッキーを運んで来てくれた。彼は、にっこり笑って「ごゆっくり」と言うと、さっさとカウンターに戻っていく。でしゃばらないマスターの気配りがうかがえた。

「おいし!」

 珈琲カップに口をつけた途端、目を丸くした香苗に、わたしは笑って同意する。

「そういえば、香苗はアドバタイジング専攻だから、卒業制作はマックで作ったりするの?」

「ううん、アナログにするつもりなんだ。でね、突然なんだけど、そのことで水木さんにお願いがあって相談に来たの」

 香苗はクッキーを摘みながら、上目使いにわたしの様子をうかがってくる。

「え、相談って何?」

 個人主義的な彼女が、わたしに相談なんて珍しいと思いながら言葉を待った。

「うん、水木さんて卒業制作は制作ルームで作品作ってるんだよね? 一緒に、ていうか、傍で作品つくってもいいかな? わたし、自宅で作品づくりしてたんだけど、うまくいかなくて…。誰かのアドバイス欲しいんだ」

「…アドバイス? でも香苗はアドバタイジングでわたしはイラストでしょ? 専攻が違うし、作品の主旨が全然違うんじゃない?」

 わたしは、少し戸惑いながら彼女の目を見て首を傾げた。

「細かいアドバイスが欲しいワケじゃないの。独りで作品つくってると、どうしても自己満足なものになっちゃうから、煮詰まった時に隣に居て、意見してくれる人が欲しいだけなの。ね、お願いできない?」

 ちょっと困ったように笑う香苗に、断る理由が思い付かない。

「…うん、まあその程度でいいなら構わないけれど…」

「ありがと。じゃあ、制作ルームに行く予定を教えてくれる? わたしも行くから」

 ほっとしたように笑んだ彼女に頷いてはみたものの、少しだけ荷が重くなっていた。現実を超えたトラブルを抱えている自分が、他人にアドバイスなんて出来る余裕があるのだろうかと不安になる。
 そんな時、ふと、講師の山崎が卒業制作の進行の管理をしていることを思い出した。

「あ、そうそう、講師の山崎が卒制の担当になったみたいだから、わたしじゃなくても彼でもアドバイスもらえるんじゃない?」

「…あ〜、わたし、あの人苦手」

 香苗は、素っ気なく、バッサリと言う。彼女へのアドバイスを、山崎に任せようと企んでいたわたしの思惑通りにはいかないようだった。

「あ、ねえ、水木さんは、クリスマスはどうするの? 彼氏いたんだっけ?」

 話を変えるように、店のクリスマスツリーに目を向けた香苗は、この季節のお決まりの話題を振ってきた。

「え…。ううん、いないよ。悲しいことにクリスマスは何も予定がないの」

 香苗とはプライベートな話をほとんどしたことがない。この機会に、少し踏み込んでみてもいいかもしれないと、言葉を繋いだ。

「香苗は? 彼氏いるの? お互い、そういう話をしたことないよね」

「そう言えばしないよね。わたしも、残念なことに彼氏はいないわ。好きな人はいるけど」

 ふふっと彼女は口許に笑みを浮かべた。