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恋愛小説「ヘヴンズDream」3

リアルな夢をみた3

「…何回か二人で会った後で、隼人くんに好きだって言われた…。で…凛ちゃんと別れるから彼女になってほしいって」

 彼女の唇から、微かに震えた小さな声がこぼれ落ちる。
 その瞬間、頭の中で何かが切れたことが分かった。予想できていたはずの答えだったが、目の前が暗くなる程のきつい衝撃を受けてしまい、自分の顔が大きく歪んだことが分かった。

「もういいわ」

 俯き加減に低い声で呟き、沸騰しそうな怒りを抑えて席から立ち上がる。

「え、凛ちゃん待って!」

 わたしはその呼び声を無視して鞄を持ち、テーブルから離れようとしたが、数歩足を進めたところで佐智に後ろから腕を掴まれた。

「離してよっ!」

 思わず手に持っていた鞄を、勢いのままに佐智の顔をめがけて振り投げた。
 見事に鞄は彼女の側頭部に当たる。佐智はわたしの手を離し、こめかみを押さえて泣きそうな瞳を向けてきた。一瞬、後悔の気持ちが湧きあがったものの、それより怒りの念が勝っていた。

「悪いけど、あんたの顔、もう見たくない」

 言い捨てるように言葉を吐いたわたしは、周りの客からの視線が自分に集まっていることを感じる。
 どう見ても、気の強い男勝りの女が、大人しく可憐な女子を虐めているように見えるのだろう。非難の視線を浴びながら、悔しい思いと共に早足でコンビニから立ち去った。
 一番の親友だと思っていた友達に、知らない間に彼氏を奪われていたという、何とも間抜けなシチュエーションだった。

 以上、ここまでがリアルに起こっていた出来事だ。
 ここから先はわたしの夢の中だけで展開していくストーリーとなる。

 佐智から隼人との関係を聞いたわたしは、悔しさで溢れ出る涙を抑えきれないままコンビニから数件隣にあった商業ビルに入り、一階の入口近くのトイレに駆け込んだ。
 洗面台に両手を付いて鏡の前で顔を上げると、あまりにも醜い自分の泣き顔に出会った。
 化粧が崩れ、マスカラが落ちて真っ黒な涙が筋を引いている。もともと艶のないボブの茶色い髪がボサボサに乱れ、より一層悲愴感を出していた。決して大きくない瞳と低い鼻。典型的な日本人の顔に、筋肉質で男の子のような体型。佐智と比べると、どこも勝ちようがない容姿だということを再認識して嫌気がさす。

「…絶対、許さない!」

 真っ赤に充血した目で、鏡の中の自分を通して佐智を睨み付けた。

 佐智、許さない。信用してたのに。友達の彼氏と二人で何度も会うなんて考えられない。
 あのコが隼人を好きだとしても、絶対、幸せになんてさせない!

 自分の中から吹出してくる憎しみに憑かれたように、怒りがどんどん募っていくことを感じていた。洗面台を無意識に引っ掻く両手の指に力が入る。伸ばしていた爪が折れたことが分かったが、痛みを感じる余裕すらなかった。

 どうしてやろう…。こんな屈辱…。どうしたらいい? 
 どうしたら、佐智を苦しめられる? 貶められる?

 彼女への怒りと憎しみはお互いに助長し合い、その感情は膨れ上がって今にもわたしを呑み込んでしまいそうだった。鏡を睨む目は、真っ赤に染まって釣り上がる。

 許さない。居なくなればいい。消えろ。消えてしまえ!

 呪文のように、涌き出る憎しみを心の中で唱え続ける。そうすることによって念が強くなり、パワーアップした恨みをまた唱え続けるという、抜け出せないループにはまり込んだ。

 絶対、許さない!! 二人とも消してやる!!

 執念に駆られて限界まで腫れ上がった憎しみが爆発しそうになり、両手で力一杯洗面台を叩いた時、不意に個室のドアが開く音がして我に返る。
 トイレの奥の個室に人が居たようだ。急いで鞄からティッシュを取り出し、目の下のマスカラ線を拭き消して、ファンデーションで化粧をなおした。

 こんな時に…。さっさと出て行ってよっ!

 しばらく、怒りがおさまるまではこの場所で独りになりたい。
 個室から出てきた人物がはやく立ち去ることを願って化粧直しをしている振りを続けた。だが、徐々に近付いてきていた足音は、予想外にも何故か斜め後ろのあたりで止まる。ふいに後頭部に投げかけられている視線を感じて、何気なく鏡越しにその人物に目を向けた。

「!!!?」

 全く予想がつかなかった視線の先の状況に、鏡に映った後ろの人物を二度見してしまう。
 わたしは凍り付いたように、鏡を通してその人物から目が離せなくなった。

「こんちは」

 その人物は、鏡越しに微笑みを浮かべて、落ち着いた声で話しかけてきた。

「…え…」

 固まったまま小さく声を漏らし、咄嗟に一歩下がって、今度は鏡越しではなくその本人を振り返ってみた。

「な…なに?」

 声にするべき適切な言葉が見つからず、抽象的な疑問詞を投げてしまった。
 なぜならそこには、女子トイレの中であるにも関わらず、性別は男性らしき人物が立っていたからだ。