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恋愛小説「ヘヴンズDream」7

個性を放つ面々2

 数カ月前、いまや元彼となってしまった隼人に、“面白い場所があるんだ”と老舗のバーに連れられて行ったことがあった。
 若いコ達は引いてしまいそうな年期の入ったその店で、たまたまスタッフとして働いていた遠藤に出会ってしまったのだ。
 彼はまさかクラスメイトが来るとは思わなかったのだろう、客がほぼ男性という独特な空間で、全く警戒のない態度でイキイキと働いていた。そしてその店でも、彼のモテ加減は半端じゃなかった。そう、彼は校内の女子だけではなく、オネエ系のバーでもモテ度ナンバー1の人物だったのだ。
 今の時代、ゲイバーが奇妙な場所というワケではないが、そういう世界に足を踏み入れたことがなかったわたしにとっては、とても奇々怪々な場所だった。

「ひっどーい。アタシが迷惑なの?」

 真剣に悲し気な表情を向けてくる彼に、わたしは苦笑いを返した。
 もとから彼は、校内でもゲイだという噂がなくもなかった。だが、わざわざカミングアウトすることでもないと思っていたのか、本人は至ってノーマルのように、そして、誰とも行動を共にしない一匹狼のように振る舞っていた。そこがまた、神秘モノ好きな女子達の心をくすぐっていたのかもしれない。
 だが、あの日わたしとバーで顔を合わせてからというもの、彼は一匹狼を突如やめてしまった。ほぼ一方的にわたしに懐いてくるようになったのだ。その行為の深い意図は読めないが、完全に素性を知られたわたしの前では、無理せずオネエでいられる分だけ楽なのだろう。

「ねえ、迷惑なの? そんなこと言わなくていいじゃない。凛ちゃんってばぁ」

 遠藤は小声で甘えたように呟きながら後ろからついてくる。
 実際、この人が傍にいることで本当に面倒なことが多くなる。いきなり一匹狼ではなくなった彼に、女子達の激震は大きかったのだろう。
 彼女達から彼との関係を何度も問いただされた。毎回、彼とはただの友達だと答えるのだが、友達にしては仲が良すぎるなどと責められ、素直に納得してくれることは滅多とない。酷い時は「どうして、水木さんなのよっ」と、いきなり目の前で泣きわめかれる始末。
 きっと、美人でもなく可愛くもないわたしの傍に、彼がくっついていること自体が不思議なのだろう。わたしとしては甚だ迷惑な話だった。
 そういう理由で、特に講義室のような女子がたくさん集まる場所では、絶対に傍に居たくない人物なのだ。

 講義室の中央にあるドアの前に立つと、傍に居た遠藤に別々に座るようにと目で合図した。
 部屋に入り、後ろの席に座るため空席を探して歩いていると、斜め前から手を振ってくる女子がいた。その動きに目を奪われて一瞬足を止めたが、彼女が佐智であることを確認すると、軽く睨みつけて通りすがる。

 馬鹿じゃないの? 今まで通りに一緒に講議を受けようとするなんて…。

 彼女は自分の隣の席に荷物を置き、わたしの席を用意して待っていた。
 彼氏を奪った友達に対して、これまでと同じ態度をとれる彼女の図太さに、怒りを通り越して呆れを感じていた。
 佐智は昔から面倒見がよく、常にわたしの周りを気に掛けている姉のような存在だった。だが、付き合っている彼氏の面倒まで見て欲しいと頼んだ覚えはない。
 ますます気分が悪くなったことを自覚しながら後方の席に座ると、あとから入ってきた遠藤が、こちらに向かって歩いてくることに気付く。離れて座るよう合図したにもかかわらず、彼はこともあろうに涼しい顔でわたしに近付き、当たり前のように隣の席に座った。案の定、何人もの女子の視線が一斉にわたしをグサグサと貫く。

「どうして隣に来たの??」

 机に両肘を付いて隠れるよう顔を覆い、目立たないよう身を縮めてうなだれた。

「ほら」

 遠藤は、鞄からすっと講議の資料を机の上に出して、二人の真ん中に広げる。
 わたしは思わず彼に目を向けた。

「講義の資料、忘れてきてるだろ?」

 オネエ言葉を消して、彼はふっと笑った。

 そう、こういうトコロなんだ。

 遠藤が異常にモテる理由を再認識する。
 外見がいい上、聞き上手に誉め上手でやたらと気が利く。そして、見返りの期待を感じさせない、さり気なく優しい行為。
 今日、わたしが講議の資料さえ入らないような小さな鞄で学校に来ていたことを観察済みだったのだ。こんなことをされれば、彼をゲイだと知らない限りは、普通の女子なら「わたしのことを気にしてくれてる?もしかして好きでいてくれている?」と、勘違いをしてしまうに決まっている。

 本当に罪つくりなゲイである。

「ありがと」

 とりあえず素直に感謝すると、彼が置いてくれた資料に目を向けた。
 だが、一つの資料を二人で見るということは、必然的に近くに接近しなくてはならない。
 周りの女子の決して好意的ではない視線を身体中に感じ、心の中でため息をついた。