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BL小説「欠片を紡ぐもの」10

堕ちゆくもの7

 友哉に女性的な印象はないが、煽る眼差しや独特なその香りが、何度となく藍野に本能を沸き立たせる。彼には、先天的に性差を超えたところで、人を惑わせる魅力があった。

「…笑わせんな。男のあんたに興味持つわけない。離せ!俺はただ、あんたと真由の…」

 藍野は友哉の胸へと当てられていた手を引き離して後ずさると、言いかけた言葉を途中で切ってしまう。
〝真由との関係を聞きにきただけだ〟と言うつもりだった。だが、それが自分の本当の気持ちではないことに気付いた彼は、言葉を止めてしまった。

「ただ、俺と彼女の?なんだ?」

 友哉は笑みを浮かべ、まるで獲物を追い詰めて弄ぶかのよう藍野に歩み寄ると、続きの言葉を急かした。

「…いや、なんでもない。ただ、本当のことが知りたかっただけだ。もうあんたに用はない。これ以上引き止めるなら警察を呼ぶ」

 藍野は混乱している気持ちを処理しきれないまま、再び棚の上に腕を伸ばそうとしたが友哉の遮る手が一瞬速かった。
 友哉は藍野の腕を強く掴んで、そのまま手荒くベッドの上に押し倒し、動けないよう身体を組み伏せる。

「てめ…なに…」

「いい加減、諦めろって」

 身体の力が入らない藍野は、完全に楽しんでいる友哉の表情に気付いて恐怖心を湧きあがらせた。

「離せ!俺が女なら犯罪だぞ。この両刀野郎!」

 足掻こうとしても、脳の伝達が身体と遮断されているようでまともに動けない。
 藍野は馬乗りになって両腕を押さえつけてくる友哉を罵倒して、下から睨みつけることしかできなかった。

「いい目だな…。でも口の利き方が酷いね、君は。まあ、そんなこと言えなくなるくらい…、可愛いがってあげるけど…」

 友哉は、わざとらしく甘い声を出して余裕の笑みを見せると、ゆっくりと藍野に顔を近づけた。
 藍野は咄嗟に顔を逸らせたが、身体全体で伸し掛かってきた友哉に手で額を押さえつけられ、雑に唇を重ねられた。まるで抵抗できず友哉から感じる独特な香りと無理に絡めてくる舌の感覚に、理性では拒否反応を感じながらも淫靡な眩暈を覚え始める。 
 身体に力が入らない。徐々に抵抗しようという気力さえ失い、Tシャツの裾を胸の上まで引き上げられても、されるがままに身を任せるしかなかった。

「綺麗な肌だな…。大人しくしていろ。そうすれば、気持ちよくしてやるから…」

「…糞野郎!離せ!」

 藍野は、友哉のどこか冷めた表情を睨め付けて罵るが、自分に力が及ばないことを知ると強く唇を噛んだ。
 屈辱とはこういうものだろうか。男に押し倒されていることが信じられず、怒りを通り越して情けなくなった。だがそれ以上に、友哉の体温や強引かつ艶かしく触れてくる手の感触に、突き上げてくる劣情を認めなくてはいけないことに強く葛藤する。

 なんだっていうんだ…。

「まずは、その口を黙らせておこうか…」

 吐息のように囁いた友哉は、再び藍野に唇を重ねて軽く甘噛みし、今度は柔らかに舌を絡めた。
 藍野の身体の奥に火がついた激動が走る。少しでも気を抜けば抑え切れそうにない衝動。彼は精一杯の力で友哉から顔を逸らせて誘引から逃れようとした。

「や…めろ…」

「…ん? 本心じゃないだろ。もう、我慢できないはずだ」

 髪を引っ張られて無理に顔を上げさせられた藍野は、目の前の美しく冷めた瞳に映る、動物的な飢えた色に気付いて背筋が寒くなった。

「心配いらない…。自分を解き放て。男は経験あるだろ?」 

「…は? なに言ってんだ…。俺はノーマルだ…」 

 藍野が不安な表情に心外な色を重ねて答えると、友哉は一瞬その整った顔を固まらせた。

「え…、俺をそれだけ煽っておいて、全くのノンケ?」 

 その言葉に藍野は目を見開いた。

「誘った覚えなんてない」

 承服できないといった表情を作った彼に、友哉は瞳を和らげ口許に笑みを浮かべた。 

「じゃあ君は無意識に俺を挑発してるのか…。まだ自分の気持ちに気付いてないんだな」