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BL小説「欠片を紡ぐもの」11

堕ちゆくもの8

 甘やかに囁きながらも力は緩めず、藍野の首にそっと唇を這わせる。
 藍野はその微妙な触れ具合に、甘美に身体中が寒気立つことを感じた。 

「ま、ヴァージンなら仕方ないか…。優しくしてやる…」 

 友哉は再び藍野の身体をベッドに押さえつけるよう、全身の体重をかけながら彼のボトムのベルトを外しはじめた。 

「やめろ…、待て!」 

 藍野は、異常にたじろいだ。 

 こいつに、掘られるのか?

 そう思った途端、一気に恐怖感がマックスに達する。

「今さら、無理だ」 

 友哉に押さえる力を更に強められ、藍野は身動きがとれない。 

「…や…めろ!」 

「いい加減、諦めろ、よ…」

「やめろって! あんただって、こんなこと楽しくないんだろ?」

 藍野は身体を重ねてくる友哉から、ずっと伝わってくる自己否定にも似た絶望感を感じ取っていた。クラブで真由を腕の中に抱いていたときと同じ、鈍い光を放つ瞳が垣間見えていた。
 彼のこの行動は彼自身の思いに添ったものではないかもしれない。友哉の中の矛盾を漠然と感じていた藍野は、紫黒の瞳で彼を真っすぐに見上げた。

「やめろよ。本当は空しいだけだじゃないのか?気持ちの入らない相手とセックスするなんて、ただの奉仕かスポーツだろ」

 曇りのない眼差しが、わずかに情を持って友哉に向けられている。
 友哉の瞳に微かな揺れがあったが、少し目を細めた彼は、ふと笑んで低く囁いた。

「君は、面白いな。しかも眩しい…。だが、逆効果だ」

「…は?」

「絶対に、手に入れたくなった…」

 そう言った友哉は、有無を言わさない力で藍野を押さえ込むと、ボトムをずらせ手馴れた動作で下着の中に手を入れた。

「やめ…!」

 藍野が大声を出そうとした瞬間、友哉が素早く唇で声を塞ぎながら、敏感な場所を柔らかく指でなぞって官能を呼び起こそうとする。
 身体を駆け抜ける快に、我慢できず身体が反応してしまった藍野は、抵抗する力をなくして脱力した。

「それでいい。素直に感じろ」

 すぐ上から落ちてくる美しい褐色の瞳。
 その眼差しに見つめられながら、快楽の点に触れられていると、それだけで達してしまいそうな波に襲われ、藍野は唇を噛んで顔を逸らせた。

「だめだろ…」

 だが、すぐに友哉の唇に追いかけられ、激しく、そして甘く舌を絡められる。
 相手が同性だと解りながらも、感覚の中に芽生えた劣情が止められない。
 身体が即座に熱くなったことを感じた藍野は、全てを諦めて自分の欲情を受け入れようとしたとき、勢いよく部屋のドアが開けられた音がした。

 近付いてくる足音に、友哉は動きを止めて耳を済ませる。

「…たく、タイミング悪いやつだ」

 彼は独り言のように呟いて、軽い溜息をついた。

「友哉、そのあたりでやめておけ。もうお遊びは終わりだ。客が呼んでる。行け」

 衝立の向こうから姿を現した男が、冷ややかな視線で見下ろしてくる。
 長身の、黒づくめの男。藍野がライブハウスのバーカウンターで会った、玲巳と名乗った男だった。
 二人の男がベッドで絡んでいる状況を目にしても動揺すらせず、感情のこもらない瞳を向けてくる。 

「はいはい」

 受け流すよう答えた友哉は、だるそうに身体を起こしてさり気なく藍野にシーツをかけ、名残りおしそうににやりと笑んだ。

「残念…」

 小さく呟きながら、玲巳には目もくれずに脇をすり抜けて部屋から出ていった。
 残された藍野がベッドの上で茫然としたまま固まっていると、玲巳の冷たい視線が上から降ってくる。

「おまえに友哉の部屋に行けと言ったのは俺だが…。もう、あいつには関わらないほうがいい」

 抑揚のない調子で言葉を落としてきた彼は、友哉に続いて藍野から背を向け立ち去ろうする。

「え…待て…」

 一人残されそうになった藍野は、慌てて身体を起こしかけたが、激しい眩暈に再びベッドにくず折れた。
 肩越しに振り返って藍野を見た玲巳は、

「無理するな。友哉に薬を使われたんだろ。もうすぐ三時だ。この部屋を貸してやるから、しばらく眠ってから朝に帰るといい」

 そう言葉を残して、足音とともに衝立の向こうへと消えていく。

 部屋のドアが閉まる音がし、広いスペースに一人残された藍野は張り詰めていた気持ちから解放されたのか、即座に瞼が緩んで暗闇に落ちる。乱れた衣服も直せないまま、数秒で深い眠りについた。