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BL小説「欠片を紡ぐもの」13

探るもの2

 そのことを思い出した彼は、一瞬、事故が松浦友哉と繋がりがあるのではと短絡的に考えたが、頭を振って苦笑いした。砂川がフリーのカメラマンなら、雑誌などの仕事の関係で[Feed]やライブハウスに現れても不思議ではない。偶然が重なっただけだろう。

 だけど…どうして非常階段なんかに居たんだ?酔ってたのか?

 片手で頬杖をついて伏目がちに砂川の画像を見つめ、その瞳に独特の好奇の光を宿しながら再び検索枠に文字を打つ。

 松浦友哉─

 ヒットしたサイトを順に開いていく。個人のホームページを持っているわけでもなく、SNSへの登録もなさそうだ。
 あるデザイン系のサイトで、友哉が紹介されているページがあったが、経歴などは簡単にしか紹介されていない。

〝ドイツの大学で建築学を学んだ後、帰国してスペースデザインに携わる〟

 その程度のもので、これまでの彼の受賞暦などを並べているだけだった。
 生まれた土地や年齢など、個人的な情報は、どこのサイトにも載っていなかった。

 そういえば、あいつ、俺より年上だよな…?

 受賞暦などからみれば、友哉は一昨年大学を卒業したばかりの藍野よりは年上なはずだが、年齢不詳な雰囲気を持っている。
 画像で見る彼は表立って顔を出したくないのか、目深に帽子を被っているものや、髪で顔が隠れている横顔のショットが多く、必ずモノクロだった。アーティスト的な演出とも捉えられるが、藍野が記憶している彼は、美しく整った顔立ちに多様な色や表情を放つ瞳を持っている。随分とイメージが違って見えた。

 サイトの画像の中には、友哉がデザインしたカフェやショップなどがあり、どれも今の時代より少し先を歩いているかのような高いセンスのものだ。だが、やはり[Feed]で感じる本能に訴えかけてくる亜空間めいたものではない。[Feed]は特別なのだろう。

 藍野は、マウスをクリックしながら何気なく見ていたページに〝造園家・山杉隆×空間プロデューサー・松浦友哉〟という見出しを見つけて手を止めた。友哉は、造園家や建築家とのコラボで仕事をしていることも多いようだ。その製作過程などのインタビュー内容が、簡単にサイトにまとめられている。

「ふん、コラボね。インタビュー、か…」

 藍野はマウスから手を離して椅子に背を凭れ、両手で前髪をかき上げてそのまま頭の上に置いた。
 ふと卓上カレンダーに目を向けると、今日の午後から得意先のハウスメーカーとの打ち合わせがあることに気づく。

「ま、仕事として提案だけでもしてみるか…」

 彼は友哉に対して腹立たしさはあったが、同時に、その美しい外見とは裏腹な闇の部分に、言い知れない興味と関心を持っていることを自覚していた。
 彼は口許に笑みをつくると、瞳に決意を映してキーボードに向かった。 

 照りつける日差しも和らいだ夕刻、オフィス街を歩きながら藍野は営業社員と一緒に得意先のハウスメーカーの本社に出向いていた。
 吹き抜けのエントランスに入った途端、冷えた空気に一気に汗が引く。
 受付に座っていた真由に挨拶程度の声をかけ、そのまま上階の企画広報部に向かった。
 真由とは以前と変わらず話はするものの、プライベートでの連絡は取らなくなり、今は単なる友達として接している。不思議とお互いに何のわだかまりもない。

 藍野が営業と二人で企画広報部のミーティングルームを開けたとき、すでに坂崎正人と女性アシスタントが資料を見ながら四人掛けの席に座っていた。

「失礼します」

 営業が腰を低くして声をかけると、二人は顔を上げてにこやかに挨拶してくる。
 坂崎は藍野と真由の間に友達以上の関係はなくなったと知ったのか、「外は暑かったでしょ?」と、以前とは相反する態度で風当たりよく接してきた。

「お茶入れてきてくれたら下がっていいよ」

 アシスタントに指示した彼は、前の席に座った二人にそれぞれ資料を渡した。

「とりあえず、午前中にもらったコラボ企画の提案書、午後一の会議で好評でね。これなら確実に反響はあるだろうからって、すでに制作準備に入ってる。それにしても佐々木さん、松浦友哉のパーティに行ってこの企画を思い付くって結構大胆だよね。うちのメーカー硬いイメージなのに」

 今回藍野が提案した企画は、ハウスメーカーと松浦友哉のコラボというもので、実際に家を建てるのではなく、3Gを使って建物や内装を分かりやすく、そして斬新に表現しようとするものだった。
 メーカー専属の建築家により作り上げられた家のイメージに、友哉が部屋の空間をデザインしていくという企画。
 これまでのメーカーのイメージコンセプトは、〝信頼と実績〟という古いものだったが、『新進気鋭の異色デザイナー』と話題されることが多い友哉を使うことで、若い顧客層を増やす狙いにも役立つと企業側は判断したのだろう。彼の企画は即取り上げられることになった。

 藍野にとっては、今回は松浦友哉との接点を持ちたいがために編み出した企画だったこともあり、完全に私情を入れている自分に気が咎めるところがあったが、成果が出れば問題はないだろうと気持ちを切り替えた。

「松浦さんにはデザインと同時進行でインタビューの了解を取ったよ。ただ、かなり無理してスケジュールを組んでもらうことになったから、時間がないようでインタビューは事務所まで来てくれと言われてる。できるだけ短時間で済ませてほしいともね。仕事の合間にちょっと、みたいな感覚だな」

 資料を捲りつつ、坂崎は今進んでいる制作状況と、これからの予定の説明をはじめた。

「へえ、そんなに忙しいんですか…。まあ、彼にとってはこの仕事だけじゃないですもんね。売れっ子って大変ですね」

 営業が感心した表情で呟いた。

「羨ましい限りだな。で、アポを取った日時と場所は、資料の三枚目にプリントしてあるから。佐々木さん、よろしく」