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BL小説「欠片を紡ぐもの」14

探るもの3

 坂崎はプリントに落としていた視線を、藍野にちらっと向けて依頼した。

「…明後日、か。分かりました」

「佐々木さん、君の企画だから思うように取材してくれればいい。期待してるよ」

 にっこりと笑った坂崎は、アシスタントが入れてきたお茶に口をつけ、「あ、」と思い出したような素振りをすると、藍野の隣に座っていた営業に言葉を投げた。

「そうだ、君。うちの安井がちょっとしたチラシの仕事を頼みたいらしいんだ。話を聞いてきてやって。今営業部にいるから」

「…え、はい、分かりました。じゃあ行ってきます」

 営業は藍野に目をやって席を立つと、坂崎に小さく頭を下げてその場を去る。
 営業の背中を目で追って部屋から出て行ったことを確認した坂崎は、いわくありげに藍野に視線を向けて口の端を上げた。

「僕は、佐々木さんがこの企画を持ってきた真意が知りたいんだけどな…」

 坂崎の言葉に一瞬動揺した藍野は、眉をひそめて「どういう意味です?」と聞き返した。

「君が園田さんと会っていた日。同じ日に、なぜか園田さんが松浦友哉と二人で一緒に居るところを見たって人がいるんだ…」

 神経質に唇を歪め、探る表情で真由の情報を引き出そうとする坂崎に、藍野はいつもの苛立ちが湧いてくる。

 当てつけがましくわざと溜息をついた藍野は、腕を組んで坂崎に冷ややかな視線を投げた。

「で? それがなに?」

「今回の企画に松浦友哉を起用したのは、もともと君が彼と知り合いだから?」

「…はぁ?」

「そうなんだろ?いや、きっとそうなはずだ」

 坂崎は興奮してきたようで、眼鏡を指でずり上げながら、やたら早口で捲くし立ててくる。

「君は園田さんと彼の間の橋渡しでもしたのか?彼女に入れ込んでいたはずの君が距離を置きはじめたのも、あの日からじゃないのか?」

 藍野は必死な形相の坂崎に、呆れ切った眼差しで苦く笑った。

「…てかさ、坂崎さん、前から言ってるでしょ?彼女本人に聞けって」

 馬鹿にした言葉を投げられた坂崎は、瞬時に怒りで顔を赤くしたが、すぐに力を抜いて笑うと肩を落とした。

「…僕は君みたいに園田さんに近付く勇気はない。だけど、彼女を誰より想っていることは確かだ。いつかチャンスが来れば気持ちを告げる。それまでは、どんなことでもいいから、彼女のことを…知りたいんだ」

 両手を机の上で固く握り締め、俯いて震える声を出した坂崎に、藍野は困ったような哀れみの表情を向けた。
 坂崎の想いはかなり歪んでいるかもしれない。真由へのただならぬ執着は、彼女の立場からいえばありがた迷惑だろう。だが、今は成り得なくても、この先、1%の確率だったとしても執着から本物の愛情へと変わるかもしれない。
 わずかながらもそう感じた藍野は、子供のように俯いたままの坂崎に声をかけた。

「とにかく、園田さんと俺との間には友達以上のものはない。あの日は俺が体調悪くて先に帰ったんだ。彼女、松浦友哉とは仕事上で面識があるって言ってたからな。たまたま出会ったところを見られたんじゃないか?」

「…本当か?」

「悪いけど、俺は坂崎さんのために嘘をつく義理はないし。…じゃ、仕事があるからこれで」

 冷めた表情で机の上の資料を手にして立ち上がった藍野を、坂崎は純粋な瞳で見上げると、

「悪かったよ。ありがとう」と小さく言葉を漏らした。

「いえ、また原稿が上がったら連絡を入れるんで…」

 藍野は嘘をついたことに少々の後ろめたさを感じながらも、席から離れて部屋の入口へと向かった。

「あ、佐々木さん!」

 藍野がちょうどミーティングルームのドアに手を伸ばしたとき、何かを思い出したように呼び止めてきた坂崎の声に思わず振り返る。

「あの松浦友哉だけど、あまり深入りしないほうがいいかもしれない。少し気になることを耳に入れたから…」

「気になること?」

 坂崎は机の上の資料を整理して脇に抱え、早足に藍野に近付いた。

「たぶん佐々木さんには関係ないだろうけど。また詳しい情報が入れば連絡するよ」

 彼は意味あり気に呟いて扉を開け、藍野を先にミーティングルームから出して後に続く。
 営業部に向かった坂崎と企画広報部の前で別れた藍野は、坂崎が耳にしたという友哉の情報が気になり、いろいろな推察を巡らせてみた。

 坂崎が言おうとしたことは、友哉のプライベートに関することだろうか? それとも別の話だろうか?

 だがいくら考えてみたところで答えが出るはずもなく、途中で苦笑いを浮かべた彼は、思考を頭の隅に押し込んだ。