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BL小説「欠片を紡ぐもの」27

近づくもの2

「あ、ボトル珈琲で申し訳ないんですけど…」

 永輝は 机の上にペットボトルの珈琲を置いて、藍野をソファに座るようすすめる。
 ソファに座った藍野は、珈琲よりもその横にあった封筒に目がいった。

「もしかして 君が見せたいものって、これ?」

 藍野は封筒を指さして、なにやら本棚から雑誌を取り出していた永輝に訊いた。
 振り返った永輝は、相変わらず笑顔を見せたまま、

「まあ、それはそうなんですが…」

 と、雑誌を机に置いて封筒を手に取り、中に入っていた写真を出して並べていく。
 広げられたB4サイズの十枚程の写真に順に視線を送っていた藍野は、言葉を無くして小さく溜息をつき、力なく笑みを浮かべて永輝を見た。

「これは?まさか、こんなことが〝松浦友哉の特別な内情〟だなんて言わないだろ?」

 藍野は、机の上をコツコツと叩いて目を細める。
 永輝が並べて見せた写真は、友哉の色模様のシーンのもので、同年代の男性との濃厚なキスや男女混合での情事などを隠し撮りしたものだった。その中には真由の写真もある。内心では大きく動揺していた藍野だが、それを見せずに平静に振舞った。

「もちろん、そんなこと言いません。松浦友哉がバイで色事好きだなんて、裏事情を知っている業界人には言わずと知れたことですしね。でも、なぜか彼のこういう写真を、兄はたくさん撮って大切に持っていた」

「こんなもの、撮ったところでどうしようもないだろ?しかも、こんな大きなサイズにして、どうしようってんだ」

「そうなんです。だから不思議だったんです。無駄なものを撮るなんて兄らしくないですから。しかも、この大きさ…。どうしてだろうと考えたんですよ。そして、自分なりに答えを出したんですが…」

 永輝は、机の上の写真を集めて封筒に入れ、意味あり気ににっと笑ってみせた。

「答え?」

「はい。今日はその答えが正しいのか、佐々木さんにも手伝ってもらって判断したいと思ってます。でもまあ、この写真だけでも世間的に知れ渡ると彼は困るでしょうね。今はネットで拡散なんてすぐにできてしまう…」

「は?ヤツを和也の代わりに脅すつもりなのか?」

「まさか。僕はあなたと取引したいんです。この写真とデータを渡すかわりに、あなたに松浦友哉を誘惑してほしいんだ。そして、その誘惑シーンを僕に見せてください」

「…どういう意味だ?何を考えてる?」

 露骨に嫌悪感を表す藍野に、永輝は、

「あ、断っておきますが僕には変な趣味はないですよ。ちょっと確かめたいことがあるだけだ。誘惑といってもあなた次第だし、ヤバい感じだったら止めに入りますから。ただ、あなたがその気になれば止めはしませんが」

 と、たしなめるようつぶやいた。

「君が考えていることがよく分からない」

「僕は自分の答えを確かめたいだけだ。あ、もちろん強制はしませんが、拒否するなら明日にはネット上に写真が出回ることになります」

 永輝はそう言って封筒を取り上げ、ポケットからUSBを出してその中に入れると、藍野に向かって差し出した。
 彼は微笑んではいたが、瞳には硬い覚悟のようなものを映している。その顔つきを見た藍野は、承諾はしないまでも断ることができずに黙ってしまった。

「もうすぐ松浦友哉もここに来ます。僕は他の部屋からモニターで拝見させてもらいます。それまでに決心しておいてください」

 永輝は部屋にあるビデオカメラを見回してから、藍野に机の上の雑誌を意味ありげに手渡して部屋を出ていく。
 力なく机の上に腰をかけた藍野は、一人残された部屋でぬるい珈琲のキャップを開けて口をつけた。

 永輝が確かめたいこととは、一体何なのだろうか。自分が友哉を誘惑することで、永輝が確認できることとは? 

 さっき永輝に見せられた友哉の写真に、胸を掻き乱された痛みが残っている。友哉の性癖が奔放過ぎることなど嫌というほど分かっていたことだが、感情がそのことを認めたがらない。

〝君以外の誰にも手を出さなければ…〟だと? 不可能だろ。笑わせる。あんなヤツのために永輝のいうことを聞くのか??

 頭から離れなかった友哉の言葉。わずかに期待していた自分を冷笑して、珈琲を一気に飲み干した。

 永輝が席を外して15分ほど経ったが、部屋に戻ってくる様子がない。
 藍野は、永輝の要求を引き受けるかどうか迷いつつ、ぼんやりと雑誌のページをめくっていたが、ふと体温が上がっている感覚にとらわれた。
 軽い胸苦しさがあり、エアコンが切れていないか確かめてみるものの、温度は全く変わっていないようだ。ソファに深く座って背をあずけると、大きな深呼吸をした。

 緊張している?

 今から友哉がこの部屋に来る。そのことからの緊張だろうか、深い息を繰り返しても動機がおさまらず落ち着かない。時間が経つにつれ、緊張が高まっていっているように感じた。