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BL小説「欠片を紡ぐもの」8

堕ちゆくもの5

 藍野は、その振る舞いについ目を惹かれている自分に気付いた。友哉の動きは雑さがなく柔らかで優雅、そして品があった。「FEED」で友哉から視線を外せなかった感覚がまた呼び覚まされた。

「で、何?こんな場所まで会いに来て聞きたいことって何だ?」

 友哉は軽く首を傾けて斜めに藍野を見つめ、冷やかした笑みを作った。
 まだ気詰まりを感じていた藍野は、二口ほどのウォッカを喉に流し込んでから言葉を出した。

「ああ…、あんたに聞きたいことがある。真由…、園田真由と、どういう関わりなのかを聞きたい。彼女は、あんたとクラブで会った記憶がないと言ってる…」

 グラスを両手で握った彼は視線を上げて友哉を見つめたが、本心から聞きたいことではないだけに瞳がぶれてしまう。

「あ~、あのときのコね…。記憶がない…か。酔っていたんじゃないのか?君は確か…フロアで倒れてからしばらく気を失ってたよな?」

 変わらず落ち着いた調子で訊ねてくる友哉に、藍野は苛立ちと羞恥を感じた。
 好きで公衆の面前で倒れたわけではない。しかもその隙に連れていた女を喰われたという、男としては面目のない立場だ。

「まあな。気付けばあんたたちが楽しんでる最中だった」

 ぶっきらぼうにそう答えて、再びグラスに口をつけた。
 アルコールをいくら身体に流し込んでも緊張が外れず全く酔いそうになかった。

「ふん…。なるほど」

「…てか、どうなんだ?真由とはどういう関係だ?彼女と付き合ってるのか?」

 探る瞳を向けていた藍野に、友哉はくすりと笑って呆れた声を出した。

「君はあのコに近付くなと言うために、こんなところまで来たのか?」

「…いや。ただ、本当のところを知りたかっただけだ。真由と付き合ってるというなら…。あんたら二人があの場所で絡んでたことも納得はいく。後で彼女が覚えてないと言ったことも、きっと言い訳だっだ…ってことだろう…」

 藍野はそう口にしながらも、自分がどうしてこの場所に来てしまったのか分からなくなっていた。

 俺は、どうしてここに来た? 

 真由への気持ちはすでに変わっている。それに、はじめから本気で想っている相手でもなかった。彼女を気には入っていたが、デートに口説き落とすことをゲームとして楽しんでいただけかもしれない。今更、彼女のことで何かを知りたいとは思わない。

 なのに、なぜ?

「それなら…納得させてやれないな。あの子の名前さえ知らないし、あの日、というより〝あのとき〟だけの関係だったから」

 藍野に向かって、友哉は後ろめたさなど一切感じさせない微笑みを浮かべて言い切った。
 その悪びれもしない態度に、藍野は意味もなく腹立たしさを感じる。

「初対面の女に…記憶をなくすほど酒を呑ませて…、喰いました。ってか?」

「…さあ。呑ませた覚えはないが。そこは自己管理の問題だろ。それに言っておくが、無理に俺から誘ったワケじゃない」

 友哉は空いたグラスを持って静かに立ち上がると、再びバーカウンターに近付いてウォッカのボトルを手に取る。

 それはそうだろうな…。

 目の前の美しい男が自ら誰かを誘う必要はないだろう。求めなくとも周りが近付いてくるに違いない。男である自分でさえ彼の存在に目を惹かれていたのだから。

 彼の言葉を認めざるを得なかった藍野は、残っていたウォッカを身体に流し込んだ。グラスにウォッカを注ぐ友哉の後ろ姿に目を向けると、筋肉質ではなさそうだが肩幅が広く均整のとれた体型だということが分かる。その背中を何気なく見つめていた藍野だったが、不意に異常な眠気に襲われたことに気付いた。

「まだ、呑めるか?」

 振り返って聞いてくる友哉の顔に、一瞬含み笑いを隠した表情が浮かんでいることが解ったが、藍野は視界がぼやけてすぐに焦点が合わなくなった。

「おい…これ…」

 ウォッカに何か入れたか?

 と口に出す前に、すでに自分の意思では身体が動かなくなっていた。
 ゆっくりと近付いてくる友哉の姿が左右に何重にも見えている。視界が大きく揺らいだ次の瞬間、誰かに身体を支えられた感覚だけを残して、藍野を取り巻く外界の全てが溶暗の世界へと転じた。