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恋愛小説「LOVEメタル」1

 

イトコの百合のひとめぼれ1

 純粋そうな円らな瞳をうるうるとさせ、百合はわたしを横から見つめている。
 真っ黒できのこのような髪型。白襟が清楚なウエストで絞られたチェックのワンピース。そして白い靴下。
 あどけなさ、と言えば聞こえはいいが、彼女の装いは垢抜けしない田舎ぽさを匂わせていた。

「で、なんで、鹿嶋さんなの?一体、どういういきさつでそうなったの?」

 わたしは肉じゃがに伸ばしていた箸を止めて、隣で頬を染めてもじもじとしている百合に聞いた。

「んっとね、美優ちゃんのバイト先に忘れものを届けに行った日があったでしょ?あの日、彼に裏口ですれ違ったの。シャツの名札に、鹿嶋って書いてたから名前が分かったの。そのとき、一目惚れしちゃったのかも」

「え…、一度すれ違っただけで好きになったってこと??」

「うんっ」

 えへっと笑って舌を覗かせ、自分の額をこづく彼女。
 天然なのか狙いなのか分からない仕草に、イラっとなる気持ちを抑えた。

「だからお願い、美優ちゃん、わたしの力になって」

 上目使いに、潤ませた瞳で見つめてくる百合は、ダイニングテーブルの上のわたしの手を、ぎゅうっと握ってきた。

力にって言われてもですね…。

 テーブルの上に置かれていた手紙に視線を移して小さくため息をつく。

「…で、百合は今日、この手紙を彼に渡して告白したいってことなの?」

「やぁん、まあ告白というかぁ。気持ちを伝えたいっていうのかな。でも、いきなり面と向かって好きですなんて言えないからぁ…」

 照れまくる彼女を目を細めて見つめたわたしは、『いやいや、気持ちを伝える以前の問題なんだけど』と突っ込みたくなることを我慢して言葉を選んだ。

「ていうか、ほんっとに鹿嶋さんが好きなの?話したこともないのに?彼、あまりいい噂ないよ?何も知らないのに手紙なんて渡していいの?」

 そう言ったわたしに、彼女は強く真剣な眼差しを向けてくる。

「大丈夫。運命を感じたの。もし彼がいい人じゃなかったとしても、わたしが頑張って更正させてあげるの」

 瞳をキラキラさせてどこか遠くを見つめている彼女は、鹿島幻想ワールドに陶酔してしまっている。
 きっと、今の彼女に〝鹿島は殺人犯だ〟と告げたとしても、恋の情熱は冷めそうにない。とにかく、いきなり告白めいたことをさせたくはない。わたしは手紙ではなく別の手段を提示してみた。

「じゃあ、いきなり手紙もなんだから、まず連絡先を聞いてあげようか?メッセージでやりとりして、どんな人なのか様子を見てみれば?」

「…。」

 急に黙って表情を暗くし俯いた彼女に、ハっとする。
 田舎で携帯すら使っていなかった彼女は、最近やっと購入したスマホを使いあぐねていたことを思い出した。

「そっか…。分かった。じゃあとりあえず、百合が手紙を渡すときにわたしが付き添っていればいいのね?」

 仕方がない。
 文明の利器が使えない彼女に、手紙を渡す以外の告白の方法はないだろう。それに意外と頑固な百合の性格を考えれば、彼に気持ちを伝えるまで諦めなそうになかった。

「うんっ!」

 大きく頷いた彼女は、目を輝かせて嬉しそうに微笑んだ。
 百合は二歳年下のわたしの従姉妹だ。小さい頃に両親を亡くした彼女は、田舎の祖父母のもとで暮らしていた。
 半年弱前、彼女が短大に入学すると同時に、通学に便利なわたしの実家で一緒に暮らしはじめた。だが、随分と山奥で育ってきた百合は、感覚が都会生活人とはズレている。時間の感覚もゆったりで、携帯はおろかパソコンもろくに使ったことがないようだった。緑豊かな田舎で祖父母と静かに毎日を過ごしていたのだから当たり前なのかもしれない。
 そして、なぜかその箱入り娘が、たまたまわたしのバイト先ですれ違った鹿嶋に恋をしたということだった。