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恋愛小説「LOVEメタル」11

悪魔のイケニエ?3

 トイレで、おかしな動悸がおさまるまで待って、ホールに戻った。
 まじで、絶対、今日で鹿島との関わりを終わらせたい。でないと、自分から生け贄になってしまうかもしれない!
 なんとか彼に百合の言葉を伝えるきっかけを作らないと。と、わたしはムキになって片付けに回っていたが、こういう時に限って全く調理場の中に鹿嶋の姿を見なくなった。
 バックヤードにでもいるのだろうか。

「美優ちゃん、もしかしてまだ鹿島と話せてないとか?」

 矢田が、すれ違いざまに小声で話しかけてきた。
 ずっと食器を下げに回っているわたしを不思議に思ったのだろう。

「うん、矢田さんにタイミングつくってもらったのに逃しちゃった…」

 彼に向かって苦笑いするしかなかった。

「そっか、大変だな…」

 同情を含んだ瞳で見つめられる。
 嬉しいような悲しいような、微妙な感じだった。
 結局、わたしのバイト終了時間まで、鹿嶋は調理場に姿を現さなかった。小耳にはさんだ話では、バイト生数人でバックヤードの片付けや掃除をしていたようだ。諦めて帰ろうとも考えたが、どうしても今日限りで彼を頭の中から消してスッキリしたい。
 とりあえず十二時まで待つことに決めたが、更衣室に一時間近くも居座ることはできない。一旦外に出て、徒歩五分の場所にある二十四時間営業のカフェに入る。周りは友達同士かカップルだらけで一人客などほとんどいない時間帯だ。夜更けに一人で従姉妹の言伝てのための時間潰しをしていることに、なんとなく空しくなる。
 深く考えると気持ちが落ちそうで、カフェのスタッフが運んできたコーヒーに口をつけて、店内の人間ウォッチングに集中した。
 年齢層が若い店内で、楽しそうに会話をしている人達から聞こえてくるその内容は、恋愛や職場での話が大半だった。

 この人たちは本当に楽しいのだろうか?

 いつも不思議に感じること。似たような服装をして、似たような話題で会話をして、否、周りと似たような人間になることで満足している人々ばかり。
 わたしには縁がない話だと思いつつも聞き耳を立てて過ごしていると、すぐに時間が過ぎて十二時近くになり、席を立ってバイト先のダイニングの前に戻った。

 たしか、今日は十二時終わりのバイト生が何人かいたようだ。ということは更衣室前などで鹿島を待っているところを見られれば、あることないこと噂されると解っている。
 歓楽街の道の真ん中で、うろうろと鹿嶋を待つ場所を探していると、バイト生たちが仕事を終えて出てきたのが見えた。だがその中に彼の姿は見当たらない。
 時間は十二時十分を少し過ぎている。また更衣室で音楽を聞いているのだろうか?

 どうしよう…。

 これ以上待つと終電に乗り遅れてしまう。仕方なく今日は諦めようと駅の方向へ足を向けたとき、わたしの横をぎりぎりに走り寄ってきた自転車に気付いた。
 驚いて一歩横に避けるが、矢のように通り過ぎる自転車を目で追いかけつつ、大変なことに気付いてしまった。

 鞄…がない!!!

 わたしは呆然とした。
 腕にかけていたはずの鞄は、前を猛スピードで走っていく自転車の男の左手にあった。あまりにも自然に風のように鞄を奪われ、声すら出ない。

 ひったくり!!!

 まさか、こんな人通りのある場所でひったくりにあうなど思ってもみなかったわたしは、自転車がどんどん遠ざかっていくのを見送ることしかできなかった。
 叫ぶことも追いかけることもできず、しばらく放心状態で立ち尽くしてしまう。周りの人が、わたしを不思議そうに見てくることが分かったが、気にする余裕もなかった。
 ふと、目の前に、サラリーマンが立ちふさがったことで我に返り、避けようとしたが、その中年男は「暇そうだね? 飲みにいこうよ」とからんでくる。
 かなり酔っていそうでアルコールの匂いがひどい。いつもならすぐに逃げられるのだが、ひったくりのショックで思考がうまく働かず、足が思ったように動かなかった。