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恋愛小説「LOVEメタル」12

悪魔のイケニエ?4

 うまく断ることもできず、まごまごしていると、

「おい、」

 と、いきなり後ろから腕を引っ張られた。
 振り返ると、目の前に今日ずっと待っていた鹿嶋の姿がある。

「…な…んだ、男連れかよ」

 サラリーマンは舌打ちとともに呟いたが、鹿島が一瞥すると、すごすごと後ろを向いて去っていった。
 少しハードなミリタリージャケットを着ていた彼に気後れをしたのだろう。

「…あんた、こんな所で何してんだ?」

 鹿嶋は、わたしの顔を覗き込むようにして眉をしかめ、奇妙そうに見つめてきた。
 いつもなら、彼の顔を見るだけで苦手意識が出てしまうが、今は知り合いが傍に居てくれていると思うだけで、不思議と安堵感が湧いてきた。

「…ひったくり」

「あ?」

「さっき、通りすぎた自転車に、鞄…とられた」

 彼は、わたしの顔を数秒見つめていたが、「そういうことか…」と独り言のように呟き、いきなり電話をはじめた。

「あ、ひったくりにあったんすけど…」

…そうか、現場で通報しなきゃいけないんだ。

 彼が、警察に電話してくれていることに気付く。
 電話をしながらこちらに目を向けて、わたしの背中に手を回してきた彼は、道の端に寄るよう誘導してくれる。その手に触れられた途端、張り詰めていた気持ちが解されるように身体の力が抜けていった。
 五分後には数人の警察官と刑事が現場に来た。事細かに状況を聞かれ、さらに盗難届けを出すために警察署に行かなければならなかった。鹿嶋は何も言わず、ごく自然にわたしに付き添ってくれていた。すぐ傍にある徒歩圏内の署だったが、警察官にパトカーに乗せられ、大仰な気分になってなんとなく肩身がせまい。だが、彼は全く気にしていないようにシートに深く身体を預けて、外に目を向けていた。
 彼と居合わせなかったら、わたしはどうなっていたのかと考えると、少し背筋が寒くなった。

「鹿嶋さん、今日はありがと…。バイトで怪我したときもそうだし、いろいろ迷惑かけちゃってごめんなさい」

 鹿嶋にお礼を言うと、彼は億劫そうに一瞬こちらに視線を投げてきた。

「気にすんな」

 一言だけ呟いて、また窓の外へと目を向ける。
 警察署に着いて盗難届けを作っている間、鹿嶋がカードを止める電話をしてくれた。その手際の良さに、以前、ひったくられた経験でもあるのだろうかと気になった。

「鹿嶋さんて、もしかしてひったくりにあったことあるの?」

 わたしの質問に、「前に田山もやられた。あいつのときも俺がここに付き添ったから、流れ的には分かってんだよ」と、彼は答えた。

「え…亜里沙ちゃんが? そうなんだ」

 田山、とは、いつも遅い時間からバイトに入る女子だった。小さくて可愛らしい、いつもにこにこしている気さくな女子だ。今思えば、彼女はバイト中に常に鹿島の傍に居るような気がする。

 あれ、もしかして二人は…。

 二人の関係が特別なものかもしれないと想像したわたしは、なぜか少し胸のあたりが重くなったことに気付いた。

「じゃあ、これで届けを出しておきます。もし鞄が見つかれば連絡しますんで」

 警察官の、淡々とした手続きが終わる。
 まだひったくりにあったという実感が湧かないまま署を出ると、鹿嶋が何気なくお札を渡してきた。

「え?」

「え? じゃねぇよ。帰れないだろ。タク拾え」

 あ、そうか。わたしは財布はおろか、なにも持っていなかったことに気づいた。
 だが、他人にお金を借りることは気がひける。

「…ありがと。でも、いいよ」

「じゃあ、家の人に迎えに来てもらうよう、電話しろ」

 彼は、そう言ってスマホを差し出してきた。
 家族は全員寝ている時間だ。わたしは、しばらく考えて、首を横に振り口を開いた。

「ありがと。でもいい」

「は? あんた、どうするつもりだ?」

 彼は、不可解な顔で首を傾げてわたしを見つめてきた。

「…鹿嶋さんちって、この近くだよね?」

 自分の口から自然に出てしまった言葉に驚いた。
 わたしはとんでもないことを言っている? と思う気持ちと、帰れないんだから仕方ないじゃない、と開き直る気持ちが入り混じった言葉だった。
 彼は数秒、間を作ったが、

「…じゃ、来いよ」

 と、特別な反応も見せず、なにも聞かず、相変わらず無愛想に先を歩き出した。