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恋愛小説「LOVEメタル」13

悪魔のイケニエ?5

 バイト先の居酒屋から徒歩十五分ほどの、オフィス街の一角にある兼テナントビルに鹿島は住んでいた。
 レトロ感のある六階建てのビルは三階までがテナント、四階以上が住居になっているようで、エレベーターの階数ボタンが色分けされている。最上階で降りた彼は廊下を進み、端部屋のドアを開けた。
 段差のないコンクリートの廊下が続いていて、左にシステムキッチン、右にバストイレの扉があり、その先の数段の階段を上がった場所に、メインルームの扉がある。古い造りだが、設計士のこだわりを感じられるような、どことなくお洒落な住空間だった。

「広い…」

 メインルームは、思わず声を出してしまうほど広い部屋になっていた。二十畳ほどあるのではないだろうか。
 だが、アンプや機材、ギターなどが整然と置かれていて、壁面はアナログレコードが詰まった棚が占領している。
 部屋の半分以上が楽器屋&レコード屋の状態で、残りの空間にベッドやソファが押しやられるようにして配置されていた。彼の、常人離れした音楽へのこだわりが窺えた。
 メタラーの部屋ということは、悪魔的儀式を行うスペースがあるかもしれない!と、少し想像していたのだが、いい意味で裏切られた。

「水は冷蔵庫にある。コンビニは裏口を出てすぐだ」

 相変わらずの無愛想ぶりで淡々と言い放つ彼は、まるで一人でいる空間のように音楽を流し、わたしに対して気遣う様子は一切ない。
 流れてきた音はメタルではなく、意外にピアノジャズだった。
 普段、楽器などとは無縁な生活をしているわたしは、ところ狭しと並べてあるギター達に気持ちが向き、なぜか胸がわくわくと高揚してくる。
 珍しいアナログレコードを、棚の端から一枚ずつ引き出し、その個性的なデザインのジャケットを楽しんでいたとき、ふと鹿嶋の気配が消えていることに気付いた。

 どこに行ったんだろ…。

 一瞬ちらっと気にはなったが、この部屋には珍しいものがたくさんあって、わたしの好奇心をすぐに掻き立て、彼の存在を忘れさせた。
 あらためて部屋を見回してみたが、本当に趣味メインの部屋といった感じだ。見たこともない機材や、古めかしい蓄音機、ヴァイオリンやウクレレまで置いてあり、見ていて飽きることはなかった。

 すっごい、コレクター??

 今日、彼という人の別の面を知った気がした。
 第一印象が無愛想でとっつきにくいだけで、矢田がいい奴と言っていたことも、もしかすると本当かもしれない。
 そんなことを思いつつ、コレクションのごとく並べられたギターを眺めていると、奥のほうに忘れ去られたように置かれているキーボードが目に入った。
 中学までピアノを習っていたことを思い出して触ってみたくなり、こそっと近付いてスイッチを入れる。素直に電源が入ったことに感動し、ミの鍵盤にそっと指を置くと当たり前だが音が出た。何年ぶりになるだろう。
 ちょっとだけなら大丈夫かなと、鍵盤に両手を伸ばして今でも思い出せる曲を弾いてみた。

 あ、意外に弾けるんだ…。

 曲名は忘れてしまったが、昔、発表会の時に弾いた曲で、やみくもに練習させられたからだろう、身体が忘れず覚えているようだ。
 ほぼ詰まることなく弾けている自分に驚きながらも、どんどん楽しくなっていく。何度か機嫌よく弾いていると、後ろからいきなり肩を叩かれた。

「あっ、ごめんなさい、つい…」

 慌てて振り返ったわたしの目の前に、相変わらずにこりともしない表情で見下ろしてくる鹿嶋の姿があった。

…!!!

 異常な動悸がわたしを襲う。
 彼はシャワーを使っていたようで、漂うソープの香りと濡れた髪が微妙に色っぽかった。襟が大きく開いた黒のカットソーから覗くタトゥが、どうしようもなくわたしをどぎまぎさせる。

「え…っと」

 思わず、視線を不自然に逸らせた。

これじゃ、まるでわたしのほうが男子みたいじゃない!?

 ふとしたときに感じるこの胸の高鳴りは一体何なのだろう。まさか季節外れの発情期ではないだろうが、思春期男子のような自分の揺れに怖くなる。

 やはり、悪魔の仕業だ!!

 と自分の気持ちを誤魔化しておくことにした。

「音、絞ったら続けていいぞ」

 彼はそう言って、やはり愛想なく背を向けた。
 一人で勝手にあたふたとしている自分がおかしくなる。

 続けてって言われても…。

 キーボードの電源を消すと、落ち着ける場所を探した。