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恋愛小説「LOVEメタル」15

悪魔のイケニエ?8

 彼はさっきまで座っていた二人掛けのソファで横になり、電気を消した。
 わたしのことを空気のようにでも感じているのだろうと思っていたが、素っ気ない優しさで気にかけてくれていたことが解った。彼はその素振りを見せないだけだ。

「鹿嶋さん、場所を変わるよ。じゃないと、やっぱり気になるから…」

 わたしは身体を起こしてベッドに腰をかけ、暗くてよく見えない彼に向かって話しかけた。

「…面倒くせ」

 鹿嶋はだるそうな声を出すと、ソファから立ち上がったような気配がある。
 場所交換のためにわたしも移動しようと思ったが、真っ暗で周りがよく分からない。

「暗くて動けないから電気つけてほしいんだけど…」

 鹿嶋が近づいてきていることは分かったが、どこに居るのかすらよく見えなかった。

「分かったから…」

 間近で、囁くような声が降ってきた。
 思わず立ち上がろうと腰を上げたが、一瞬で足元をすくわれ、また抱き上げられるようにして、ベッドの奥に寝かされる。

「え…!」

「あんたも田山も、よくわかんねーわ」

 彼は呆れたように呟きながら、わたしの隣に横になると、こちらに背を向けた。

「これで気にならないだろ?そこで寝ろよ」

 彼は、わたしが気を遣うことなくベッドで眠れるように、隣に移動したことが分かる。
 だが、違う意味で気を遣うのだが、そこには気付いていないのだろうか。それより、彼の口から何度か出てくる〝田山も〟という言葉が引っかかって仕方がなかった。

「あ…亜里沙ちゃん…も…って?」

「ああ、俺がソファで寝るのは気を遣うから一緒に寝ろってさ。あんたもそうなんだろ? ここで寝れば気が済むんだろ?」

 一瞬、心臓が鷲掴みにされたような痛みが走った。

「…亜里沙ちゃん、よく来るの?」

 自分の予期しなかった惑いを隠しながら、平静な声で何気なく聞いた。

「まぁな、バイトが遅くなって帰れなくなったとかで、たまに…」

「そうなんだ…」

 どうしてだろう、胸が苦しい。
 暗さにも少し目が慣れ、ベランダから入るわずかな月明かりで、こちらに背を向けてベッドの端ギリギリに寝ている彼の姿がおぼろげに見える。背中のしなやかで綺麗なラインに、なぜか切ない気持ちになる。

 亜里沙ちゃんは、きっとこの人が好きなんだ…。

 鹿島の口振りでは、亜里沙は彼にとっての〝彼女〟という存在ではなさそうだ。
 だが、亜里沙がこの部屋に来ることを受け入れているということは、彼もある程度の好意は持っているのだろう。動かない背中をじっと見つめていたわたしは、胸苦しい思いで身体が埋めつくされたことに気付いた。

 もう、眠ってる?

 そっと彼に近付くと、かすかな息づかいが聞こえる。わたしは背を向けて、彼と背中がわずかに触れる場所に移動した。

 暖かい…。

 ほんの少しだけの接点だったが、身体中に彼の体温が流れこんでくるようで、とても心地よく感じる。
 すると、鹿嶋はわたしが寒いと思ったのか、何も言わずに布団を無造作にかけてきた。

 起きてる…?

 この、さりげなく素っ気ない優しさが、わたしの胸を甘い感覚で更に締め付けた。
 ふわっとした、それでいて切ない複雑な感情に包まれ、まどろみながら眠ってしまった。