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恋愛小説「LOVEメタル」17

マイノリティワールド1

 その日の夜、そわそわと落ち着かない気持ちを抱えたまま、カフェダイニングのバイトに入った。
 鹿嶋の鍵をエプロンのポケットに入れ、すぐに返せるように用意をする。今日の彼のシフトはわたしより早い時間からはじまっていたはずだ。
 ホールに入るとすでに満席で、忙しそうにスタッフ達が働いているのが見える。急いで料理を運ぼうとカウンターに向かったとき、こちらに背を向けて立っていた鹿嶋を見つけた。人出が足りなかったのだろう。ホールに駆り出されたようだ。
 ばくっと心臓が動いて、まるで血が逆流したかのような感覚に襲われる。思いも寄らない自分の身体の反応に驚いた。
 トレイに料理を乗せてこちらを振り返った彼は、一瞬わたしに目を向けたが、相変わらず挨拶もなく笑顔も見せず、横を通り過ぎていった。
 勿論、特別な反応を見せてくれるなんて期待はしないつもりだったが、いつも通りの愛想がない彼に、少し寂しさを感じてしまった。

 余計なことを考えずに働かなきゃ…。

 仕事に集中して料理を運んでいると、通りすがりに女子バイト生が耳打ちしてきた。

「矢田くん、客で来てるよ。彼女つれて」

「…え?」

 わたしは、ホールを見回してみる。
 ウィンドウ側の四人席に、矢田とその彼女らしい人物が、仲良さそうに話している姿が目に入った。彼の前に座っている彼女は、優しい微笑みを浮かべた上品な佇まいの女性だった。とても似合っている二人に見える。

 彼女、いたんだ…。

 彼に憧れの感情を抱いていたはずだったが、思いのほか残念感がない。矢田の席に近づき、「ごゆっくり」と、冷やかしの笑顔をつくれるくらいに余裕があった。
 矢田のテーブルから離れたとき、ふと目の端に鹿嶋の姿が見えた。食事済みの食器を客のテーブルから引いて回っているようだ。彼がテーブルに近づくと、その席の女性客の目が輝くことが分かる。愛想がいいわけでもなく、サービス精神があるわけでもない彼が、どうして女性客の目を惹いてしまうのだろうか。

 あまり、見たくないな…。

 思わず目を逸らせる。
 矢田の彼女を見ても何も感じなかったわたしが、鹿島に目を奪われる女性客に、嫉妬に似た気持ちを持った。

 ん??なんで…?

 おかしな自分の感情に気付いて頭を数回振ると、再び無心に戻って料理運びに専念した。
 今日は土曜でしかも団体客の予約が入っているようだ。矢田が休みとなると、鹿島が駆り出されて当然だろう。担当場所が同じだとすぐに鍵を返せると思ったが、忙しすぎて話すチャンスすらなかなか見つからない。バタバタと接客に追われていた頃、亜利砂が満面の笑顔で「おはようございます~」と、ホールに入ってきた。
 一瞬、自分でも理解しがたい複雑な気持ちが駆け抜け、ついつい彼女を目で追ってしまった。亜利砂は、空いたテーブルの片付けをしていた鹿嶋を見つけると、人目も気にしないで脇目もふらず傍に寄っていき、嬉しそうに話しかけていた。

 すっごいな…。

 わたしに、ああいうストレートな行為ができれば、すでに鍵を返せているのだが。
 シフトを確認すると、鹿島は十時で終わるようだ。それまでに鍵を返さなくてはと気にはなっていたが、なかなか亜利砂が離れようとしてくれない。彼がホール担当のときは、毎回こうしてくっつき回っていたのだろうか。感心するほどのべったり振りだった。
 しばらくして店の時計に目を向けると、九時半を少し過ぎていた。

 そろそろ本気で鍵を返さないと…。でも、どうしよう…?

 とりあえず忙しいピークは過ぎつつある。できるだけ彼の近くに居て、すぐに鍵を渡せるようにスタンバるが、やはり亜里沙の存在が傍にあり、返す機会を見つけられなかった。このままだと、彼女は鹿嶋が帰るまで傍を離れなさそうだ。
 周りを挙動不審ぽくうろうろしているわたしに気付いたのか、鹿嶋がカウンター前でいきなり近づいてきた。