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恋愛小説「LOVEメタル」18

マイノリティワールド2

「はい…?」

「部屋の鍵」

 手の平を差し出してくる。

 もちろん近くにいた亜利砂は彼とわたしの会話を聞いていたが、手を出されると返さないわけにもいかず、ポケットから鍵を出して鹿嶋に渡した。

 でも?? いいのだろうか??

 このタイミングで鍵を返すということは、完全に彼女に誤解させてしまうのではと、ちらっと亜里沙に目を向ける。案の定、彼女のわたしを見る目がとても怖い状態になっていた。いつもの、にこにことした笑顔が一切消えている。
 鍵を受け取った鹿島は、「合鍵つくったか?」と、素な顔で意味の分からない言葉を投げてきた。

「…は?」

 合鍵?とはなんのことだろう。わたしがつくる理由もないし、鹿島にそんなことを頼まれていた覚えもない。
 どういう意味だろうと首を傾げたとき、亜里沙がいきなり背を向けて、その場から所在無さ気にホールの方向へと早足で去っていく。去り際にわずかに見えた彼女の潤んだ瞳が胸を突いてきた。

 あ、彼の言葉でさらに誤解したんじゃ??

「わるい、いまの話、合鍵のくだりは忘れてくれ」

 鹿嶋は小さくため息をついてやれやれという表情をすると、鍵を胸ポケットに入れ、その場から去ろうとした。
 彼の雰囲気で、さっきの言葉の意味をわたしは察する。

 わざと、だ!

 彼は、わたしと特別な関係であるかのような言葉を出して、つきまとう亜里沙を遠ざけようとしたのだろう。
わたしは、逆当て馬どころか、気のない相手を避ける道具にされてしまったことに気付いた。モノのように使われたという気持ちと、亜利砂の悲しげな表情を目の当たりにして、腹立たしさが湧いてくる。鹿島がどれだけモテるかは知らないが、全く女心を分かっていない。

「最悪…」

「ん?」

 振り返った彼を、非難を込めた目で見つめ返した。

「女の子の気持ちをもてあそぶようなことするなんて最悪。付きまとわれたくないなら、思わせぶりせず、はっきり言えばいいじゃない」

「…だな」

 彼はこれといった弁解もせず、ふと困ったような、らしくない苦笑いを見せてその場から立ち去った。
 なぜか悔しかった。自分の気持ちがよく分からないまま、イライラしながら接客を続ける。
 そういえば、亜利砂の姿がどこにも見当たらない。心配になりスタッフ用のトイレを覗くと、洗面台の前で化粧をなおしている彼女がいた。目が赤く少し腫れていて、さっきまで泣いていたことが分かる。
 彼女はわたしに気付くと、にこにこっと鏡越しにいつものように笑ってきた。鹿島との仲を誤解しているであろう彼女からは避けられても仕方ないと予想していたが、意外な反応に安堵した。

「分かってたんだ、あたし」

「え?」

 亜里沙は、化粧ポーチを片付けながら、視線を落として呟いた。

「彼が、わたしを何とも思ってないこと。でも、彼はすごーく優しいから、突き放したりできないの。それにつけこんで、つきまとってたんだ…」

 ふふっと笑う彼女の瞳に、再び涙が浮かんだ。

「亜里沙ちゃんは誤解してると思うんだけど、鹿島さんとわたしはなにもないよ。それに、あの人は全然優しくないでしょ」

「うん…違うの。誤解なんてしてないよ。わたしね、メンタル弱くて面と向かって好きじゃない的な言葉を言われると辛いの。彼は…わたしのそういうところを見抜いてるから、さりげなく遠回しに諦めさせようとしたんだと思う…」

「え、そう…なの?」

 わたしの言葉に頷いた彼女の瞳から、涙が落ちる。
 彼のあの行為は、愛里紗にとっては優しさということなのだろうか。混乱したわたしは、自分が彼に言ってしまった非難の言葉を少し後悔した。

「美優ちゃんは、彼が好きなの?」

 ハンカチで涙を拭った亜里沙に、いきなり直球で聞かれた。

「え?」

「彼が、好きなんでしょ?」

「…ちが…、わたしが鍵を持ってたのは、帰れなくなって彼のマンションに泊めてもらっただけ。他にはなにもないし、好きとかそういうのじゃない…」

 彼女の質問に慌てたわたしは、少し声が上擦り、妙なテンションになってしまう。
 鹿島が好きなんてことはありえないはずだ。なにより、百合が好きな相手なのだから、そういう目で見ることは許されない…はずだ。

「隠さなくていいよ。好きじゃない人のところには泊まらないでしょ。イイワケ見つけて傍に居たかったんじゃない?わたしもはじめはそうだったから分かるよ」

 亜利砂は振り返ってくると、なつこい笑顔を向けてきた。
 その言葉に、今、最も痛い箇所を突かれた気分になる。

「それはない…と思うんだけど…」

「違わないでしょ。わたしは振られたようなものだけれど、頑張って。応援するから」

 否定しようとしたわたしの言葉を止めると、彼女は満面の笑顔でエールを送ってきた。
 亜里沙を心配して来てみたものの、いつの間にか立場が逆になっている。とりあえずその場だけでも取り繕うように苦笑いして見せたわたしだったが、微妙な感情が縺れ合い、すっきりとしない感覚だけが残った。