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恋愛小説「LOVEメタル」19

マイノリティワールド3

 ライヴ当日。

 チケットに載っていたライヴハウスを探しながら、わたしは百合と一緒に歩いていた。
〝友達と行っておいで〟と、彼女にチケット二枚を渡したのだが、〝一緒にライヴに行ってくれなきゃ泣いちゃう!〟攻撃を受け、鹿島の予想通りに再びママ代わりになってしまった。
 地図では、バイト先のカフェダイニングから十五分ほど南に下がった高架下が現地になっているのだが、普段は足を運ばない場所なだけになかなか見付からない。

 このまま、辿り着かなければいい。

 本気で、わたしは願っていた。鹿島とは否応なくバイトで会ってしまうのだから、これ以上別の場所で顔を合わせたくはない。はじめから苦手意識があった人ではあるが、そういう理由ではなく、最近彼に感じる自分の奇妙な乱れが不安にさせた。

「美優ちゃん、ほんとにこの辺りなの?」

 きょろきょろとしている彼女を目にし、心の中でため息をついた。
 いつまでママをしていなければいけないのだろうか…。適当に誰かを誘って行ってくればいいのにと思ったが、どうも百合にはまだ親しい友達ができないようだ。
 田舎育ちの彼女は都会の友達がつくれないのだろうか?というよりは、天然ぽいけれど、やっぱりしたたかなの?的な性格が、周りを敬遠させてしまうのかもしれない。そう考えると、少し百合が不憫になってしまい、思わず憐れみの視線を投げてしまう。

「ん? なあに?」

 わたしの視線に気付いたように、今日も総ピンクの装いの彼女は、円らな瞳をこちらに向けてきた。

「…ううん、なんでもない」

 慌てて顔を反らせる。

「あ、美優ちゃん、あれじゃない…?」

 百合の視線の先を追うと、重暗いガード下に並ぶ店の中に、入口がオープンなスペースが目に入った。
 目立たない端のほうに〈D/S〉という店のサインが出ていた。

「ほんとだ。ここみたい…」

 思ったより明るいオープンスペースに安堵した。
 足を踏み入れると、軽く座れるようなソファが並べられていて、壁にはフライヤーがぎっしり張りつくされた告知掲示板がある。その奥の扉の向こうがライブフロアになっているようだ。
 慣れない場所に少し緊張したが、隣でガチガチになっている百合をこれ以上不安にさせないためにも、自分が落ち着かなければと肝を据えた。
 だが、これまでメタルのライヴなど見る機会がなかったわたしは、ソファにまばらに座って雑談している客層に少し圧倒された。スキンヘッドや長髪など、普段は見かけない物珍しい人達ばかりだ。どこから沸いたのだろう。客なのか出演者なのかの見分けさえつかない。
 時間よりはやく着いてしまったわたしたちは、目立たないように隅に座ったが、女性客が少なく場違いな感じがして、どうしてもそわそわとしてしまった。
 受付で時間を確かめると、鹿嶋のバンド「Delig」は、八時頃スタートの予定だ。
 すでに、他のバンドがプレイをはじめていて、たまに客が出入りするライブフロアへの扉から、激しく重い音と声が聞こえてきた。
 好奇心から演奏を見てみたい気もしたが、黙って座っている百合の様子を見ると、顔面蒼白で音楽観賞どころではない。悪魔崇拝的音楽ライヴと知っていながらも来たはずだが、やはり身体が拒否しているのかもしれない。

「百合、大丈夫?」

「…うん。わたし耐えてみせる」

 花柄のピンクワンピの上に、ローズピンクのカーディガンを羽織った彼女は、背筋を伸ばしてカチコチに固まったように座っている。
 まるで祈るように胸の前で指を組んだ手を合わせ、この空間にまったく似つかわしくない人物と言えるだろう。かなり無理をして、この場所に居ることが分かる。
 鹿嶋は一体なにを考えて彼女をライヴに誘ったのだろうか。手紙を渡した日に、百合の姿はちらっとでも見たはずだ。こういう空間とは縁遠い人物だということくらい想像がつくはずだった。

 ようやく八時を少し過ぎたころ、ライヴフロアから客が外へと流れてくる。バンドの繋ぎの休憩のようで、次が鹿嶋のバンドになる。
 先日、彼が部屋で作っていた曲の美しいメロディを思い出し、不思議と期待で高揚感が沸いてきた。だが、わたしのわくわく感とは真逆に、百合は今にも倒れてしまいそうな声を出した。

「美優ちゃん、わたし気分が…」

 普段では決して近寄ることもない人種達を目の当たりにして、彼女に血の気が見られない。

「大丈夫よ。みんな、ちょっぴり怖く見えるだけで、害はないから」

 と、小声で慰めてみたものの、やはり田舎の高校を出てすぐの女子には、インパクトがありすぎなのだろうか。
 真っ青な顔をしている彼女の状態を見て、このまま帰るべき?と迷っていたとき、自然とオープンスペースに居た客がライヴフロアに流れていく。
 鹿嶋たちのバンド演奏が始まったのだろう。