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恋愛小説「LOVEメタル」21

マイノリティワールド5

 そんな妄想異世界へと思いを馳せている彼女に、どういう言葉をかければいいのか見当がつかない。
『いやいやいやいや、勘違いだし~』と、本当なら突っ込みたいところだが、言葉を飲んで、できる限りの笑顔をつくった。

「仕方ないんじゃないかな。彼とはリスペクトするものが違うんだから…」

 かなり苦し紛れにフォローの言葉を出す。

「…ありがと美優ちゃん。鹿嶋さんに、〝愛してくれてありがとう、罪深い百合は消えます。あなたのことは忘れません〟って伝えておいて…」

 百合はその台詞とともにぽろぽろっと涙を落としてゆっくりと壁から離れ、これみよがしに項垂れて歩き出した。
 ベタなドラマの演出か、中学生の演劇を見ている気分になり、なんとなく背中がむずむずするのを感じながら成り行きを見つめる。すると、少し歩みを緩めた彼女は、わたしの言葉を待っているような素振りを見せて動きを止めた。

 ここは、声をかけるところなのだろう…か?

「…百合、帰るの?」

 仕方なく呼び止めてみると、彼女は待ってましたとばかりに濡れた瞳で振り返り、口許に無理な笑みを浮かべ、「ごめんなさい」と、いきなり背を向けて走り去っていく。
 きっと、悲劇のヒロイン? のつもりなのかもしれない。

 …百合劇場?

 一人残されたわたしは、微妙な疲れを感じて脱力した。
 しばらく経っても百合が戻ってくる様子はなく、一旦ライヴハウスから外に出て周りを探してみる。だが、どこにも姿は見当たらず、電話にも出ない。まあ、このまま放っておくことにしよう。彼女は自分の世界の中だけで鹿嶋という人間の想像を膨らませて好きになっていたのだ。ただ、恋愛に慣れていない田舎娘の妄想は、かなりキツイものだということを知った。

 ライブハウスに戻ってみると、まだ鹿島のバンドは続いているようで、吸い寄せられるようにフロア内に向かった。
 重いドアを開け、変わらず形容しがたい不思議なサウンドの世界へと足を踏み入れる。妖しく崇高な世界観。響く重い音と鹿嶋の澄んだ高音のアンバランスさが、わたしを惹き付けて離さない。耽美的なメロディと、ドラマティックな音使いが、病み付きになってしまいそうだった。
 思わず、人をかきわけてフロアの前方に進み、スピーカーの近くに寄った。身体中に響きわたる低音が心地いい。夢見心地でステージに目を向けていると、歌を奏でる彼の瞳が、思いがけずこちらに向けられた。
 胸の高鳴りで身体全体が、大きく反応する。
 妖しい色の瞳が絡まって解けず身体が熱く竦んだ。ほんの数秒が永遠に感じるほど、わたしの全てを一瞬で奪ってしまう。心の奥底まで堕とされるような眩暈に襲われた。

 周りを魅了する音を作り出し、そして奏でるために生まれてきた人かもしれない…。

 彼の非凡な才能と、フロア内に漂うサウンドが作り出す世界観にいつしか嵌りこみ、激しくも心地よくトリップしている自分に気付いていた。
 彼等の演奏が終わると一旦フロアから外に出たが、ライヴの興奮状態が全く冷めず、鹿嶋に一言だけでも感想を伝えたくて、うずうずしながらうろついていた。
 しばらくして次のバンドがはじまり、再び客がライヴフロアへと流れ込んでいく。
 鹿嶋のステージを見て衝撃と興味を覚えたわたしは、他のバンドも少し覗いてみようと客の流れに乗る。フロアではいきなり轟音が耳に響き、ステージには白塗りで金髪ロングヘアのボーカルが立っていた。

 そうそう、わたしが想像していたメタラーってこれ! DMCみたいなの!

 思わず心中で呟いたが、あきらかに音が鹿嶋のバンドとは違ってインパクトが強く雑だ。しかも、フロアの盛り上がりようが異様で、周りの客の身体ががんがんぶつかってくる。
 メタルにしても、いろいろなジャンルがあるようだ。感心しながら興奮気味の客達の間を抜けて居場所を探していたとき、いきなり後ろから肩を掴んでくる手があった。
 咄嗟に振り返ると目の前に鹿嶋の姿があり、いきなり耳元に顔を近付けられた。突然の近距離に胸の鼓動がヒートアップする。

「出るぞ」

 わたしの甘い感覚をよそに、一言だけそう言った彼は、さっさと入り口の方へと歩きだした。
 DMCもどきバンドのステージが少し心残りだったが、先を進む彼に続いてフロアから離れた。
 オープンスペースに出て、奥のソファ席へ向かった彼の後ろを付いていくと、端に座れと視線で示してくる。壁際のソファに座ったわたしの隣に彼は腰を下ろした。