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恋愛小説「LOVEメタル」22

マイノリティワールド5

「誰か来るの?」

 前のソファが空いている。
 あえて隣に座るということは、前の席に来る人物が他にもいるということだろう。

「まあな…」

 鹿嶋はわたしの言うことなど耳に入っていないかのように、適当に返事を返してくる。
 いつの間にか、彼は爽やかな白Tシャツに着替えていた。さっきのステージでの妖しさとはうってかわって、少し汗で湿気った髪は、スポーツ後のようなすがすがしさを放っている。まるで別人だった。

「鹿島さん、今のバンドを見てたんじゃないの?」

「ま…いつでも見れっからな」

 彼は膝に片足首をひっかけるように足を組んで頬杖をつき、億劫そうにテーブルの上に置いたジーマを持っている。
〝爽やか〟と感じたのは一瞬だけで、やはり彼の基本は気だるく無愛想なイメージだ。これで〝爽やかな好青年〟の印象なら、きっとモテ過ぎて困るくらいだろう。そんな想像をしていると、ふと彼が斜めに視線を落とすようにわたしを見つめてきた。

「で、娘はどうした?」

 そう呟いて、にやっと笑う。
 その言葉に一瞬疑問符が浮かんだが、彼はわたしをお節介なママだとのたまっていたことを思い出す。〝娘〟とは百合のことを言っているのだと気付いた。

「帰っちゃった。あなたの愛に応えられないって言いながら。あ、〝愛してくれてありがとう、罪深い百合は消えます。あなたのことは忘れません〟って伝えておいてって」

 わたしの言葉に、彼は目を細めて少し固まったが、いきなり面白そうに笑い出した。

「そっか、応えられない、ね…」

 どうも、笑いが止まらないようだ。
 参ったというように、手を額に置いて、天を仰ぐように笑っていた。彼の笑いのツボを突いたのだろうか。わたしは、百合の言葉をそのまま伝えただけなのだが。とりあえず、彼女が帰った理由だけは伝えておかなくてはいけない。

「彼女、カトリックなの。だから、あなたに愛されても神様を裏切れないって…。」

「…」

 彼は、一瞬その美しい瞳をこちらに向けて見開いたかと思うと、悶絶したようにテーブルに突っ伏して笑っている。

「そこまで笑う?」

「わるい、つい。…てか、うちのバンドはブラックメタルじゃないし、宗教的なものなんてほぼ関係ないけどな」

 そう言いながら、まだ笑っていた。

「え?ちがうの? だって、スクリーンに666とか…」

「ああ、あれは今回のライヴコンセプトなだけだ。一般的に悪魔だなんだの言ってるのは、今プレイしてるシロヌリバンドのブラックメタルとかがそうで、うちはデスというかゴシック寄りだから関係ない…」

 ?? 

 彼の言葉の意味がさっぱり分からない。ただ、メタルの中でも、いろいろなジャンルがあるということだけは理解できた。

「まあとにかく、メタルはあまり一般受けしないマイナーなジャンルだしな…。あんなお嬢さんなら引くだろ…」

 ふふっと笑って再び頬杖をつき、意味深な瞳を向けてきた彼の表情に、わたしは察するものがあった。

 また、わざと!だ。

 彼が百合をライヴに呼んだのは、自分を想うことを諦めさせようとしたのだ。
 この人は、一体なにを考えているのだろうか。亜里沙といい百合といい、自分を想ってくれる女子をどんどん遠ざけていく彼の思考が理解できない。

「〝娘〟が俺を見捨てたんだから、もうママ代わりは必要ないな。ほっとしたんじゃないか?」

 からかうような笑みを浮かべてジーマに口をつけた彼を見つめた。
 ほっとしていない、というと嘘になる。はじめから百合の釣り合いの取れない恋には反対だったのだから。これでやっと鹿島とも関わらなくてすむ。

「…まあ、そう…ね」

 適当に返事をしたものの、わたしは少し寂しい気持ちになった。
 それにしても、世間の所謂バンドマンといえば、女にだらしないイメージがあるのだが、彼は全く逆に思える。
 女遊びをしようと思えば際限なくできそうな容姿なのに、異性に興味がないのだろうか。

 まさか…やっぱり、もしかする?

 相変わらず物憂げにジーマを傾けていた彼の、美しいオネエ姿を脳裏で想像していたとき、ライヴスペースのドアがいきなり開いて、数人の客が怒声とともに激しい勢いで外に飛び出してきた。