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恋愛小説「LOVEメタル」37

ノーメタラー・ノーライフ6

 数ヵ月後。

 ずっと探し続けていた、情熱を傾けられる〝何か〟を見つけたことを確信したわたしは、日々充実した生活を送れるようになった。
 その〝何か〟とは、キーボードを弾き、音楽に携わること。しかも大好きな人のバンドのメンバーとして、彼と同じ場所で音楽活動ができるという素晴らしい毎日。
 もちろん大好きな人というのは、無愛想だが限りなく優しい人物、鹿島栄斗。彼とはラブラブな毎日だ。

 …と、言いたいところだが、そんなに人生は甘くはなかった。

 年末も近い今日は、鹿嶋のバンド「Delig」の今年最後のライヴの日。
 老舗ジャパニーズメタルバンドをゲストに呼んだことで、ライヴハウスは満員御礼、フロアには立っている場所すらないほどの客入りで、すし詰め状態だった。
 異様な盛り上がりを見せてライヴは無事終了。興奮した客がフロアからなかなか引かない。
本来なら、キーボーダーとしてそのステージに立っていたはずのわたしは、ソファに一人でぽつんと座って缶コーヒーを飲みながら、除々に捌けつつある客達を眺めていた。

 みんな、楽しそうだなあ…。

 他人事のように客の波を見つめていると、いきなりライヴスペースのドアが勢いよく開き、一人の女性が颯爽と出てくる。
 超ミニのパンツにハードなブーツを履いた彼女は、腰までの長い髪を靡かせてこちらに歩いてきたが、一瞬、高いヒールがカクッとなってワタワタとした。わたしは慌てて視線を逸らせ、その様子を見ないふりをする。
 そんな彼女は、何もなかったようにわたしの目の前のソファに座ると、疲れた風に足を組んで煙草に火をつけた。わずかに煙にむせたようだが、それにも気付かないふりをした。

「ふう、疲れた…」

 彼女は煙草をふかせて煙を大げさに吐き、ため息をつく。

 また劇場がはじまった…? ってことかな…。

 一応、愛想笑いは作っていたものの、内心では大きなため息をついた。

「ね、わたしのステージどうだった?」

 だるそうに聞いてくる。

「よかったよ」

「…そう?」

 少し斜にかまえて高飛車に振る舞っているが、長い髪が邪魔なようで、しきりに肩の後ろへと払っている。

 慣れないエクステなんかするから…。

 無理が見える彼女の振る舞いに、脱力しながら苦笑いした。

「百合!」

 どこからともなく彼女を呼ぶ声が聞こえてくると、それまではイイ女風に振る舞っていた田舎娘は、嬉しそうな笑顔を見せて立ち上がる。
 彼女の後方から近付いてきたのは、鹿島のバンドのリーダーの拓人。振り返った彼女は「たく~!!」と、高い猫なで声で名前を呼びながら彼のもとへとすりよって行った。〝こいつ~〟〝いや~ん〟的な、見るからに熱苦しい二人は、そう、いつの間にか水面下で付き合い始めていたのだ。

 さかのぼれば、百合がはじめてライヴを見た日のこと。彼女が、百合劇場を披露して帰ってしまった本当の理由は、ターゲットを鹿嶋から拓人に変更したからだ。その日以降、わたしの知らない間に百合は拓人に猛烈なラブコールを送っていたらしい。
 鹿嶋にはわたしを間に入れないと告白さえできなかった彼女が、拓人には一人でアプローチできたのは、はじめから勝算があったからだろう。そして、彼はなんと資産家の息子だった。百合にはその辺りの鼻も効くようだ。やはり強くしたたかな彼女に、ある意味尊敬の念を持った。
 その結果、キーボーダーも、リーダーの一存で知らない間に百合が担当になっていたのだ。
 とはいえ、百合はわたしよりピアノ歴は長く上級者だ。バンドにとっても、わたしより百合のほうが欲しい人材に近いだろう。
 鹿嶋と同じステージに立つことに夢見心地になったこともあったが、荷が重かったのか、少しほっとした自分を感じていた。それに、わたしはあまり目立つことが好きではないし、キーボードはバンドをしなくても弾けるものだ。しかも百合は従姉妹だ。したたか者とはいえ、どことなく抜けていて憎めない部分もあり、なにより一途で一所懸命な部分がかわいいとも思える。周りにはあまり理解されない存在だが、わたしだけは応援し続けよう。

 というまとめで気持ちを静めた。

 そう、何事も、そう思い通りに事が運ぶものではない。
 鹿嶋との関係も中途半端な、恋人なのだろうか?という間柄になっていた。
 バイト先に逢いに行った日以降、彼は何かと忙しいようで、まともに顔すら合わせていない。というより、あの日の彼の言葉は幻だったのだろうかと思えるほど、放置され続けていた。
 もちろん、クリスマスという恋人達のイベントも逢っていない。イヴにわたしから〝メリークリスマス〟というメールを送ったが、その日には何の連絡もなく二日後に返事が返ってきた。イヴもクリスマスも連絡がないなど、どう考えても他に女性の影があるか、何とも思われていない、としか考えようがない。
 それでも彼の言葉を信じ続けようとしているが、どんどん現実味が薄れてきている。今日のライヴも鹿嶋に呼ばれたわけではなく、百合に誘われたのだ。
 わたしって、あなたにとってどういう存在?と思うほうが普通だろう。