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恋愛小説「LOVEメタル」38

ノーメタラー・ノーライフ7

 そんなわたしと鹿島の関係とは裏腹に、見ていると汗が出てきそうなバカップル二人を苦笑しながら眺めていると、ダウンジャケットを着てすっかり帰り支度の鹿嶋が、店の入口から足早に入ってくるのが見えた。
 彼は拓人に近付き、何か耳打ちするように話しかけている。急いでいるような様子を目にし、今を逃せば話すチャンスがなくなると思ったわたしは、席を立って三人がいる場所へと歩み出した。
 あと数メートルという距離で、近付くわたしに鹿嶋が視線を向けてくる。
 やっと気付いてくれたと思ったそのとき、「栄~!」という、やけに通る声と派手なヒール音が聞こえ、思わず足を止めた。
 彼を追いかけて店に入ってきた女性の美しい顔に目が止まる。真白のコートを着た彼女は鹿嶋を後ろから抱きしめ、可愛らしい仕種で彼の顔をのぞきこむように見つめた。

「ねえ、はやくぅ」

 甘えた上目遣いに、わたしまで溶かされそうになる。
 その涼しげで上品、そして時折情熱的な表情を見せる顔は、なぜかいつも彼の傍にあった。

 だめだ…近付けない…。

 やはり確実に、普通の友達関係ではないだろう。
 目を反らせて180度ターンすると、そのまま前に進んだ。ライヴスペースの奥にトイレマークを見つけ、とりあえずの逃げ場に個室に駆け込む。

 逃げたって仕方ないのに…。

 自分の行動に後悔し、ドアに凭れてうな垂れた。
 あまりに甘く、それでいて自然な恋人同士の雰囲気を持つ二人を見ると、身体が勝手に動いて、あの場所から逃げてしまった。いつも彼の傍に居る彼女は、一体誰なのだろうか。問いただしたかったが、長く放置されすぎて、今、鹿嶋にとってわたしがどういう立場に在るのかさえ分からないのだ。

 しばらく身を潜めて、彼等がいなくなってから外に出よう…。

 トイレの個室で時間を潰すということが、とんでもなく忍耐がいることに気付いた。たったの五分がとても長い。だが、急いだ様子だった鹿嶋は、ここに長居することはないはずだ。十分ほど経ってトイレからそっと外に出ると、案の定、彼等の姿は消えていた。
 店を出て高架沿いの端を歩き出すと、虚しさとほっとした気持ちが交ざりあい、悲しい思いが胸を占める。

 やだな、わたし、なんなんだろ…。

 堂々としていれば良かったものを、卑屈な自分が惨めになる。なにも悪いことしてないんだけどな…と、苦しさを誤魔化すように笑いながら歩み進めた。

 というか、わたしは彼のなんなんだろ…。

 もう彼を諦めるべきなのだろうかとマイナス思考になりながら、一筋目の高架角を過ぎたところで、いきなり後ろに影を感じて足を止めた。
 この辺りは暗くて人通りも少ない。ぞくっと背中が寒くなり、身構えると同時に周りを見回す。遥か前方に数人の人影がある。咄嗟にそちらに向かってダッシュしようとしたとき、斜め後ろから強く腰に手を回された。

「…!」

 痴漢!!!

 と叫びたかったのだが、恐怖とパニックで声が出ない。
 死に物狂いでその手から離れようとしたが、しっかり捕らえられて動けなかった。極限状態で降りかかった身の危険から必死で逃れようともがいていると、意外にも聞き覚えのある声が落ちてきた。

「何してんだ、おまえは…」

 呆れたような低い声に思わず顔を上げる。
 そこには、少し苛立ったように見下ろしてくる美しい瞳があった。

「あ…か…?」

〝鹿島さん〟と言いたかったのだが、恐怖心から解かれた安堵感に、全身の力が抜けて言葉が発せなかった。

「ほら、行くぞ」

「え…」

 彼はわたしの腰に手を回したまま、まるで荷物を引きずるかのように歩き出す。

「待って…あの…」

 さっきまで傍にいた彼女はどこに消えたのだろう。
 きょろきょろと辺りを確認したが姿は見えない。

「待たない」

 感情のこもらない眼差しが冷たく落ちてきた。

 え?わたし、が何かした??

「どうせ、あんたのことだから、また俺があいつと何かあるんだろうとか妄想してんだろうけど…」

 そう言いながらも歩みを止めない彼の腕に身体を押され、何度もつまづきながら足を進める。
 そのたびさりげなく、ぐっと腕で支えてくれる力強さにドキドキしつつも、ささやかな反論をした。

「だって…いつも彼女が傍に居るし…あんなにくっついてれば妄想もするよ…。それに全然連絡してくれないし…」

「あ~、しばらく忙しかったからな…」

〝忙しかった〟という言葉は、とても便利なものだ。
 それだけで全てを誤魔化せる。これまでの放置状態、プラス、いつも傍にいる彼女の存在を有耶無耶にされそうになったことに気付くと、わざと足を重くして彼を睨むように見上げた。
 そんなわたしの様子に気付いたのか、彼は〝仕方ないな〟とでも言いたげな、少し苦い視線を落としてくる。

「…あいつは血縁者だから気にすんな」

 さらっと言った彼に、あ、そうなんだ。と流してしまいそうになったが、おかしなことにハタと気付いた。

 血縁者ということは、お姉さん? 親戚?