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恋愛小説「LOVEメタル」4

イトコの百合のひとめぼれ4

 意外に彼のスタイルは普通だ。
 黒長Tの上に暗い赤のノースリーブパーカーを着て、ボトムがジーンズ。長TはバンドTのようだが、控えめにサイドロゴが入っている程度。少しハードなブーツも、足先が丸みを帯びているからか気にならない。しかもコンパクトなホワイトのヘッドフォンが、お洒落な雰囲気を出してしまっていた。
 軽く両手の親指をボトムのポケットに引っ掛け、音楽を聴きながら斜め下に視線を落として歩いてくる。

 おっと、これじゃ百合を冷ますことができない!

 メタラーとはいえ、ライブでもない限り、普段から激しい装いなどしないのかもしれない。冷静に考えると分かることで、自分の浅はかな予想に呆れてしまった。
 そして、肝心の百合はといえば息すらしていないかのようにわたしの後ろで縮こまり、彼を見ることさえできないようだった。

う~ん、この状況をどうすれば??

 近づいてくる鹿嶋は、わたしたちに気づいたように視線を投げてきたが、長い前髪の奥から向けてくる濃い琥珀色の瞳は、こちらに興味なさそうに逸らされた。
 眉目秀麗なことは認めるが、相変わらず物憂い雰囲気で笑顔の一つもない。百合が彼のどこをどう見て好きになったのか疑問だった。
 わたしたちの前を素通りした彼は、声をかける暇もなく裏口から中に入っていってしまう。
 挨拶くらいしろよ!と思ったが、まあ、こちらからも挨拶をしたことはない。お互いさまかもしれない。

「行っちゃったね」

 わたしは内心、ほくそえんだ。
 彼を見ただけで固まってしまう百合に、手紙など渡せないだろう。このまま諦めてくれれば、とても助かる。
 だが、いきなり彼女はわたしに手紙を差し出して頭を下げてきた。

「美優ちゃん、お願い!」

「え?」

「鹿嶋さんに渡してください!」

「えー!!」

 90度に折れ曲がるかのように頭を下げてくる彼女から、数歩後退った。

「ムリムリ。それはムリだって!」

 百合はそう言ったわたしの顔を悲しそうに見つめると、肩を落として手紙を引っ込める。
 そんな辛そうな態度をされても、どうしてあげることもできない。というか、ここは突っぱねることが彼女のためだろう。

「そっか…そうよね…。自分で渡せないなら、こんなもの必要ないよね。三日かけて書いた手紙だけどもう…」

 瞳をうるうるさせ小さく呟いた彼女は、突如として手紙を揚げて、両手で破ろうとした。

「わ、三日って、ちょっと待って!」

 その極端な行動に、思わず彼女の手から手紙を奪った。

 しまった!

 と思ったときは遅かったようだ。百合は、にっこり、というよりはにやりと笑って、

「やっぱり渡してくれるんだ。美優ちゃん大好き」

 と、いつもより低めの声で囁いた。

「あ…」

「じゃあ、お願いしますぅ」

 と、百合は満面の笑顔をつくり両手を振ってみせると、わたしの返事も聞かないうちに身を翻して去っていく。

「…え、百合!待って!」

 呼び止める声に全く反応せず、小さくなっていく彼女の背中を見送りながら、どうにも納得のいかない感覚に襲われた。
 どう考えても、わたしは百合にいいように使われているとしか思えないのだが…。
 外見のもっさり感とは裏腹な女策士である。恐るべし田舎娘だった。