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恋愛小説「LOVEメタル」5

イトコの百合のひとめぼれ5

 ビルの裏口を入ってすぐ左側に狭い更衣室がある。白シャツと黒パンツ、ソムリエエプロンに着替えたわたしは、百合に渡された手紙をとりあえずポケットに入れた。鏡を見ながら長い髪をまとめる。前髪だけは自分で切っているが、後ろは知らないうちに背中まで延びてしまっていた。日本人の平均身長より少しだけ背が高いからか、長髪でも違和感はないのだが、そろそろ切らなくてはいけない。
 そんなどうでもいいことを考えながら化粧をなおし、ライナーで目をはっきりさせてホールに出た。

 なんだろう、いつもと違うプレッシャーが…。

 スタッフのスケジュールが書かれているノートを見て、鹿嶋のバイト終了時刻をチェックする。
 十時。都合のいいことに、その時間に終わる他のスタッフはいない。彼が終わる時間に合わせて更衣室周りをうろついていれば、手紙を渡すチャンスはあるかもしれない。

 てか!!

 どうしてわたしがドキドキしないといけないのだろう。
 あ、そうだ、このまま手紙を渡さず、鹿島には彼女がいるらしく、手紙を受け取ってもらえなかったと百合に嘘を伝えれば…。嘘も方便、万事、うまくいくのでは?
 百合を悪魔の手から救えるうえ、わたしも面倒なことに巻き込まれなくて済む。一石二鳥ということになる。
 そう考えていたとき、不意に持っていたスマホに私用電話が入り、ホールから急いで女子トイレに駆け込んだ。確認すると、百合からの電話だった。

「はい? どうしたの?」

 よからぬ企みをしていたタイミングでの電話に、少々の驚きと後ろめたさを感じる。

「美優ちゃん、言い忘れたんだけれど、鹿嶋さんにかならず直接電話で返事してもらえるように伝えてほしいの」

「え? 電話って…」

「番号は手紙に書いてあるから、そこに電話してって伝えて。絶対に。じゃ、忙しいのにごめんね」

「あ、ちょっと…」

 わたしが返事もしないうちに、電話は切れていた。
 数秒スマホを見つめ、さっきまでの〝手紙を渡さない計画〟が崩れてゆくことを感じる。

 あの田舎娘! エスパーか!

 わたしは、無理にでも鹿嶋に手紙を渡さなければいけない羽目になってしまった。
 いつも通りに客のオーダーを聞いて料理やドリンクを運んでいたが、常に意識の中には鹿島がちらついていた。惚れた相手が頭から離れないのであればまだしも、どちらかといえば苦手な男子をずっと気にしなくてはいけない状態はきつい。とはいうものの、時間というものはどんどん過ぎるもので、あっという間に十時近くになっていた。

 十時を少し過ぎた頃、バイトの最中のわたしはマネージャーの目を盗んでホールから抜け、更衣室に向かった。この店の更衣室は、一つの部屋にずらっと並べたロッカーで男女別のスペースをつくり、各々の入口にカーテンを引いているだけの簡易なものだ。
 部屋の入口は男女一緒で入りやすいのだが、なんとなく足音を忍ばせ、男性用スペースのカーテンの前で待ち伏せする。中ではロッカーを開けるような音が聞こえ、人の気配があった。
 手紙を握りしめ、ドキドキしながら待つ。勿論このドキドキは不安のドキドキだった。