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恋愛小説「LOVEメタル」6

イトコの百合のひとめぼれ6

 鹿嶋とは半年近く同じ場所でバイトをしてるにもかかわらず、一言も話したことがない。結局、苦手意識があるのだろう。そんな相手に、頼まれたとはいえラブレターとやらを渡すのだから、不安になるのはあたりまえだ。
 息を潜めてカーテンの前で待っていたが、何故か一向に出てくる様子がない。彼を待ち始めて十分は経っているだろうか。はやく仕事に戻らなくてはマネージャーにぐちぐちと説教されることが分かっていたわたしは、思いきって声をかけた。

「鹿嶋さん、いますか?」

 男性用スペースに向かって声を投げるが、何の返事もなかった。

 いない? さっきのロッカーの音は…?

 ロッカーを開ける音がしたのは女子用からだったのだろうかと、隣のスペースを覗いてみたがやはり人はいなかった。

「…ちょっと、お邪魔…します」

 おそるおそる、男性用スペースのカーテンを開けて中を覗く。
 すると、細長いスペースの中ほどに居る鹿嶋が目に入った。ヘッドフォンをつけて折りたたみ椅子の上で片足を抱え、アンニュイに座っていた彼は、こちらに気づいて顔を上げてくる。

「あ…! ごめんなさい!」

 わたしは慌てて背中を向けると、カーテンを後ろ手に閉めた。
 彼は制服のシャツを大きく全開にしたまま音楽を聴きながら座っていたのだ。一瞬、白い肌の肩から胸上部にかけて見えていたトライバルタトゥーに目が奪われ、驚きと同時に艶かしさを感じる。見てはいけないものを見たような気分になり、必要以上に心臓が慌てた。

 なに!?

 全く落ち着こうとしない鼓動に自分でも驚く。
 確かにこの部屋は空調が効かなくて暑い。それに勝手に中を覗いたほうが悪いのだが、少しは他人に見られるかもという配慮をしていてほしい。
 外でどぎまぎしていると、後ろでカーテンが開いた。

「なんか用?」

 振り返ると、鹿嶋が煩わしそうな表情で立っていた。
 彼がシャツを閉めて出てきたことに、とりあえず胸をなでおろす。わたしは、ともかくさっさと用件を終わらせようと、ポケットの中の手紙を彼に差し出した。

「この手紙、従姉妹から鹿島さんに渡してほしいって頼まれて…。読んであげてくれませんか?」

 鹿嶋は一瞬手紙に目を向けたが、なにも聞こえなかったかのように無視し、再び中に入ろうとする。

 え!スルーですか??

「あの!待って!」

 思わず彼のシャツの裾を掴み、強い声の調子で引き止めた。

「ぁんだ?」

 わたしを振り返った彼は、その美しく冷たい瞳で見下ろしてきた。
 目を合わせ続けると気持ちまで射抜かれそうで、つい視線を逸らせる。

 怖いんですけど!
 とにかく渡してしまおう!

「え、っと、ですね、わたしの従姉妹が…」

「聞こえてたって…。だから、そういう手紙とか面倒だし」

 彼はイラっとしたような口調で言って、鬱陶しそうに髪をかきあげた。
 たしかに小学生ならともかく、いい大人にとって手紙を渡してくる異性は面倒としか言いようがないだろう。だが、ここで引き返すわけにはいかない。また、百合に泣きつかれるのはどうしても避けたいのだ。

「待って。お願い。できれば電話してあげてほしいけど、読むだけでもいいから受け取って!」

 無理矢理に、手紙を彼の手元にもっていく。
 彼は億劫そうに手紙を受けとると、「こういうのってさ、本人に渡すように言えば?あんた、ママじゃないんだからさ…」と、呆れた表情をわたしに残してカーテンを閉め、再び部屋の中へと入っていった。

 なんなのだろう、この負けた感じは…。

 腹立たしさと、情けなさが込み上げてくる。
 わたしが何か悪いことをしたのだろうか。本来、ラブレターなんて面倒だろうけれど、もらって嬉しいものなのでは?あの態度はないんじゃないの??
 鹿嶋が無愛想なのは分かっていたが、どうにも見下されたような気がして仕方がない。もう、二度と彼には関わりたくない。百合にどう泣きつかれようとも、もう、鹿嶋には近づかないと心に誓った。