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恋愛小説「LOVEメタル」9

悪魔のイケニエ?1

 基本的に働くことが好きなわたしだったが、今日はじめてバイトを休みたいと思った。
 だが、最近人手が足りていないカフェダイニングを休むわけにもいかず、重い足取りで店に向かう。
 とりあえず鹿島と顔を合わせる機会をつくろう。あとは、何気なくさらっと「電話してあげて」と伝えて、すぐに立ち去ればいいんだから。

 簡単なことなのに…。

 なぜだろう、彼と関わらなければいけないと思う程、奇妙な緊張感とともに気持ちが沈んでくる。やはり悪魔のオーラを感じてしまうのだろうか。
 ダイニングに着いて制服に着替え、いち早くスタッフのスケジュールノートを確かめると、彼のバイト終了時間は十二時予定だった。十一時終わりのわたしは、前回のように待ち伏せはできない。
 ならばホールで食器を下げる係に徹して、キッチン担当の彼と接近できるよう、隣の洗い場へ行く機会を増やそうと考えた。バイト中でもチャンスがあれば話せるかもしれない。
 さっさと百合の言葉を伝えて、できるだけ早く鹿嶋との関わりを絶ってしまいたかった。いつまでも、〝伝えなきゃ〟と頭の隅に彼の存在を置いておくことが苦痛に思える。
 落ち着かない気持ちを抱えたままに仕事をはじめ、テーブルに残された食器を重ねていると、「おはよ」という声とともに、片付けを手伝ってくる人物がいた。

「あ、矢田さん、今日ははやいね」

 彼は、同じバイト生で一歳年上の矢田稔。
 いつもにこにこしていて面倒見がよく、皆から好かれる兄貴分のような人物だった。

「そうなんだ。てか、美優ちゃんこそ今日はどうしたんだ? 珍しく下げに回ってる?」

 さすが、目ざとい。
 ホールに出るスタッフはある程度役割分担が決まっていて、普段のわたしはオーダー取りと料理運びが主な仕事だった。

「うん、また従姉妹に鹿嶋さんへの伝言を頼まれたんだけど…」

 前回鹿嶋に手紙を渡した時、中抜けしたことがばれて後からマネージャーにしつこく理由を問いただされた。
 このマネージャーというのが曲者で、強い立場のものにはへりくだるが、弱い立場の者には至極陰険な人物だった。矢田は、長時間バックヤードで小言を言われていたわたしを、人手が足りないという理由をつけてホールに引っ張り出して助けてくれたのだ。
 そのとき彼には、中抜けした理由を素直に話した。彼は他人を信頼させる器を持っていて、自然となんでも話せてしまう。

「ああ、それでか。美優ちゃんも大変だな」

 彼は、おかしそうに笑った。

「笑いごとじゃないし。わたし、鹿嶋さん苦手だから…」

「あ、ごめんごめん、でも、鹿嶋はいい奴だよ。外見もだけど性格も男前だし、従姉妹は見る目あるんじゃないか?」

 彼は、食器をまとめてトレイに乗せ、爽やかな笑顔を見せてくる。

「そう…かな」

 絶対納得できない。
 いくら矢田の言葉でも、その言葉は全くもって信用できない。

「じゃ、片付けにいこうか」

 彼はそう言うと、テーブルの上のトレイを持って、調理場へと先に歩きだした。
 わたしに残されている食器はグラスが二つだけだった。
 やっぱり優しいな。わたしは顔が綻ぶことを抑えられない。矢田に対しては、ずっと憧れのような感覚を持っていた。見た目も性格もさっぱりとした好青年の彼は、老若男女問わず誰からも好かれる。彼の背中を追ってついていく足取りは、自分でも分かるくらいにふわふわとしていた。
 ホールから調理場に入ると、すぐに洗い場があり食器洗浄器が置いてある。

「お~い、鹿嶋、ちょっと」

 普段は横のシンク台に下げた食器を置いておけばいいのだが、矢田は野菜を洗っていた鹿嶋を呼んだ。

もしかして…。

「なに?」

 面倒くさそうに近づいてくる彼は、相変わらず先輩バイト生の矢田に対してもにこりともせず無愛想だった。

 やっぱり、絶対、いい奴なんかじゃない!

「この食器、先に片付けといてくれないか?  今日、洗い場のおばちゃんが遅いんだ」

 矢田はすごい。そんな常識知らずの鹿嶋にも、ちゃんと笑顔を向けられる。

「あー、分かった」

 …あれ? やけに素直なんだ。

 彼は矢田の指示通り、すぐに食器の仕分けをはじめた。応対は無愛想だが、少しは矢田のことを先輩として認めているのかもしれない。