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恋愛小説「極彩パラノイア」13

愛する。ということ1

 燈子はストライクを決めると、飛び跳ねながらレーンから戻ってきた。

「最後に決めてやった~!」

 そう言ってわたしにハイタッチした後、スコアを覗いていた田崎にも無理やり手をあげさせてタッチしている。

「やった~190だよ! 睦月はどうだった?」

 勝ち誇ったように聞いてきた彼女を無視して、黙々と帰り支度をする。

「睦月さんは40点だな」

 素で、田崎がつぶやいた。
 なぜこういう面子でボーリングなどしているのだろう。自分でもこの状況が不思議になる。
 昼間にハレーション男子とカラオケで別れたあと、燈子に電話をして田崎とは付き合えないとはっきり告げた。気持ちがハレーション男子にあることを自分で認めてしまった以上、中途半端に田崎に期待を持たせるのは申し訳ないと思ったからだ。

 だが、燈子は思いのほか慌てた様子で、とにかくすぐに会いたいと強引に場所を指定してきた。気は重かったが、乗り気ではなかったとはいえ田崎を紹介してもらった恩もある。交際を断る意志を変えるつもりはないが、話だけは聞こうと指定されたカフェに向かった。すると、どういう訳かそこには田崎と二人で楽しげに話している彼女がいたのだ。
 カフェで三人で他愛ない会話をしてから郊外のアミューズメント施設に来た。そしてわたしたちは今、ボーリングを終えて駐車場に置いていた田崎の車に向かって歩いているところだ。

 まったく意味が分からない。彼女の意図するところが、さっぱり分からない。
 陶子が何か目論んでいるのかもしれないと、今日一日彼女をじっくりと観察してはみたが、いつもと同じ態度に見えた。

 隣を歩いていたわたしの視線に気付いた彼女は、急に腕を組んでくると逆の腕を田崎と組む。間に入って両方の腕を取り、テンション高めに陽気に叫びはじめた。

「さて~、ドライブでもしながら帰ろう!」

 時計を見ると、そろそろ日を越える時間になっている。
 寄り道せず帰りたかったのだが、場の空気を壊すのも気が引け、渋々に彼女の言葉に賛同した。

「ちょっと、睦月は前でしょ」

 車のバックシートに座ろうとしたわたしを嗜める燈子の声に、しかたなく助手席へと移動する。

「田崎さん、適当にドライブしたら先に送ってね」

 燈子は、後ろから運転席のシートに手をかけて、楽しそうに彼に話しかけていた。
 彼女はわたしと田崎を無理にでも交際させたいと考えているのだろうか。けれど、それは当人同士の問題で、第三者がどうにかできるはずもないことを知ってほしい。

「ね、田崎さんが、前に言ってたDVD見たよ~。ほら、お笑い芸人が出てる邦画。すっごく面白かった」

「そう? よかった。燈子ちゃんなら楽しめるんじゃないかと思ってたんだ」

 二人の会話を聞きながら、わたしはふとバックミラーにうつる燈子の瞳が、いつもより潤んでいることに気付く。
 彼女は、田崎のシートに凭れるように寄りかかっていた。

 あれ…?

 気のせいだろうか。わたしは彼女の気持ちを勘ぐる。
 これまで燈子が、男性に甘えている場面を見たことがない。コンパなどでも、人をまとめる姉さん役をかってでている。だが、今日の彼女のちょっとしたしぐさや雰囲気に、女性を感じさせるものがあった。それは、田崎がいるからではないだろうか。
 否、もし憶測通り燈子が田崎に好感を持っているとすれば、彼をわたしに紹介などするだろうか。

「ねえ、もうすぐ公開のハリウッド映画、二人で観に行けばいいのに」

 その燈子の言葉に、やはり自分の憶測は勘違いだと思い直したが、なにかが不自然で気になってしまう。

「ああ、睦月さんには誘ってるんだよ。返事待ちってとこ」

 冗談めかして田崎は答えた。

「あ、そうなんだ~。睦月、来週の休みにでも田崎さんと行っておいでよ」

「…来週は予定あるんだよね」

 できるだけやんわりとしたトーンで断ったが、あまりにもしつこい彼女の態度に、少し辟易しはじめる。
 そんなわたしの気持ちを察したのか、束の間、彼女は黙った。
 田崎は燈子のリクエスト通りに車を遠回りさせて湾岸を走ったあと、先に彼女が住むマンションまで送り届けた。どちらにしても、わたしと田崎は近所なのだから後回しルートになるのだが、彼と二人の空間は少し気まずい。
 今ここで交際はできないと伝えておくべきかと迷っていたとき、彼が信号待ちで口を開いた。

「睦月さん、僕の他に気になってる人いるんだってね? 燈子ちゃんから聞いたよ」

 わたしは、その言葉に目を見開いて彼を見た。

「いいんだ。もし気持ちがその人に固まった時は、教えて」

「…田崎さんは、わたしのことが好きなんですか?」

 彼の気持ちが読めない。