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恋愛小説「極彩パラノイア」22

無彩色女子の恋3

 物心ついたときから、落ち着いた色が好きだったわたしは、白、黒、グレー、と、無彩色を好んで身につけることが多かった。日々を心安らかに過ごしたいと願ってきたからだろうか、目立つ行動は避け、〝地味でも穏やかに〟が信条だった。
 そして、目に映るものと人の心が美しければ、最高の理想郷だと思えた。その理想郷を求め、人の心を育むセラピストになりたいと勉強中なのだが、今は自分の恋の後始末さえできず四苦八苦している。まだまだ器が小さすぎて笑えるほどだ。

 そんな地味でぱっとしない無彩色女子のわたしの目の前に、ハレーション女子が立っていた。

「え、…ギャル?」

 燈子は、信じられないものを見るような目でわたしを見つめている。

「燈子の作品とも言えるんですけど…」

「それはそうなんだけどね」

 部屋の鏡に映る見たこともない自分。
 ホルダーネックの白地薔薇柄ミニワンピースに、真っ赤なリボンストラップ付10センチサンダル。栗色にカラーした巻き髪に映える、ブルーのリボンカチューシャ。切りそろえられた前髪の下の瞳は、自分のものとは思えないほど、大きく潤んで印象的に見える。もちろん、付け睫&カラコンのおかげだった。
 それにしても履きなれないスカートに、足が心もとない。

「落ち着かないな…」

 鏡の前で、あらゆる方向から自分を眺めたが、まるでコスプレでもしている気分になった。

「…だって別人だもん。でも、すっごく可愛いよ。睦月は元がいいから」

 燈子の言葉に、わたしは耳を疑った。

「なに驚いた顔してるの?」

「ううん、可愛いとか、はじめて言われたから…」

「そう? 睦月はほぼ化粧しないから地味なだけで、美人だよ」

 にこにこ笑う彼女は、わたしの頬に手を延ばし、チークを手直しした。

「よっし、かなりギャルが入っちゃったけど、派手さでは負けないでしょ。これでいってらっしゃい」

 彼女に、極彩色メンバー達に臆することなく彼に逢いたいのだと相談した結果が、こうなってしまった。
 毒には毒を。のような考え方なのだろう。極彩色というよりは、派手なギャルになってしまったようだが、わたしには決して思いつかないアイデアだった。
 たしかに、この姿だと極彩色な空間でも違和感を感じない? かどうかは疑問だが、少しは勇気を持てるかもしれない。
 外見を変えただけで気持ちまで変わるとは思えないが、〝ギャルを演じる自分〟のように客観的になれ、伝えたいことも他人事のように話せるかもしれない。
 ハレーション男子に謝ってすっきりするまで、しばらくは気持ちも無彩色女子から離れようと決断した。

 だが、彼の家への道すがら、歩きなれないサンダルに四苦八苦する。
 こんなギャル、どこを探しても絶対にいないだろう。何度も、かくんっとなって苦笑いしながら足をすすめた。しかもワンピースの素材がシフォンのフレアで、風がふくたび裾を押さえなくてはならない。女子って大変だな…。と改めて痛感する。
 無彩色の自分より、他人から感じる視線が多くて気になった。派手な色を身に纏うだけで、注目される確率はあがるようだ。頭の先からつま先まで見られることもしばしば。この視線が平気な極彩色連中は、ある意味達観しているのかもしれない。というか、単純に言えば目立ちたがり屋ということだろうか。

 駅を過ぎて彼の住処が近づくと、心臓が騒ぎ出して苦しくなった。あの日の言葉を撤回して謝りに行くだけだと自分に言い聞かせたが、とても困難なことをするかのように感じてしまう。
 長屋が見えはじめて更に息苦しくなったが、どうにか歩み進めて玄関までたどり着いた。引き戸に手をかけようとしたが、暴れまわる鼓動がわたしを次の行動に移させない。
 だが、せっかくここまで来て帰ってしまっては、力を貸してくれた燈子にも申し訳ない。気持ちを落ち着かせるよう、目を閉じて大きく深呼吸をした。

「あれ? 里樹に用?」

 いきなり後ろから声をかけられ、驚いて振り返る。
 目の前には、前回この近所の道で出会ったハレーション男子の友達が立っていた。全く後ろの気配に気付かなかったのは、よほど緊張度が高まっていたからだろう。

「…あの」

「あいつ、中にいるだろ。入れば?」

 彼はそう言って引き戸を開け、我が家のように玄関を入っていく。
 わたしは、そのまま玄関先で固まってしまった。

「里樹~、客だぞ」

「はあ? だれ?」

 中から、彼の声が聞こえた。
 その声音だけで立ちくらみがするほど呼吸困難になる。

「さあ、ギャルっぽい女子」

 友達の言葉を聞いて、以前出会ったことに気付かれていないことを知る。
 やはりメイクとファッションというものは侮れない。女子を化けさせてしまうものだった。

「ギャルなんて知らね~」

「ま、出れば分かるんじゃね? かわいい子だぞ」

「はあ?」

 面倒くさそうなハレーション男子の声が聞こえていた。