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恋愛小説「極彩パラノイア」5

求愛ダンス2

 だた、真剣なわたしに相反して彼はなぜか余裕な表情でにっと笑う。
 そして、取り上げた煙草をいとも容易たやすくさらっていった。

「ちょっと、あなた…」

「ざんね~ん。俺二十二だも~ん。いわゆる、大学生ってやつだし」

 そういうと、勝ち誇った視線を寄越よこして、ゆっくり一吸いした。

「…は?」

 嘘だ! 極彩色に騙された??

 この落ち着きのないちゃらつきようから高校生と信じきっていた。まさか成人している男性などとは思いもしなかったことだった。

「ま、いつも若くみられるんだけどねえ。なんでだろ~ね」

 〝ふへへっ〟と笑う。

 たまに見せた彼の落ち着いた眼差しは、年齢を考えれば納得もいく。十代だと信じきっていたこのちゃらちゃらのハレーション男は、わたしの三歳下ということだ。
 高校生だと思っていたから許せた部分も、成人していると分かった今、これまでの非常識な行為が無性に腹立たしく思えてきた。
 彼にとって少し人種の違うわたしは興味の対象で、からかってみたかったにちがいない。

「じゃあ、いい大人なんだし恋の相談なんていらないでしょ」

 コーヒーを一気に飲み干して、後腐れがないようにと彼の前に置いていた伝票に手を伸ばす。
 だが、いきなりその手を掴まれた。
 力強く、それでいて包み込む気遣いを感じられる暖かい手。一瞬、身体中が心臓になったかのように大きく波打った。

「クライアントを逃しちゃ、だめだって」

 落ち着いた包み込むような声。
 そして、静かに見つめてくる鳶色の瞳。大人の顔の彼だった。
 わたしは、自分の動揺を悟られないよう彼の手をそっと払って、納得できないながらも座りなおした。

「よかったあ~。ねーさん帰ったらどうしようかと思っちゃったよ。タバコはね、たまーにしか吸わないよ。緊張したときとか、ね」

 灰皿に煙草を押し付けた彼は、ふと悪戯気に笑ってみせ頬杖をついた。

「ま、じゃ、相談、いいすかあ?」

「…どうぞ」

 本来のカウンセリングなら、クライアントの目を見て話を聞くものだ。
 だが、今のわたしには複雑な気持ちが絡まって、彼をまっすぐに見ることが出来ず、心持ち視線を下に向けていた。

「あのさあ、恋の相談なんだけど…」

「…大丈夫よ。恋の経験は浅いけれど、人の話を聞いて解決を手伝う勉強はしてるから、ある程度は期待に応えられると思う…」

 また胸のあたりに重鈍いものを感じる。
 本当は自分の感情が安定しなくてカウンセリングどころではなく、すぐにでも逃げ出したい気分だった。だが、彼から感じる真っ直ぐな瞳がそうさせてくれない。

「あ~、相談じゃないかも…」

「…は?」

 相談じゃない。その言葉の意味が分からずにわたしは眉をひそめて彼の顔を見た。

「とにかくさ、俺、ねーさんが気になってるから傍にいたいんだよね」

「…え?」

 今、彼がすらすらと言った言葉の中に、予想の範疇を超えたものが入ってきていた。

「傍にいちゃ、だめかなぁ?」

 へへっと笑って首をかしげた彼を見つめながら、言葉の意味を必死で解明しようとしたが、どう考えてもこれは相談ではない。
 全く予期しなかった言葉に、わたしの感情は視覚と同じくハレーションを起こし、妙な動悸とともに思考力が皆無になった。

「ちょっと待って…。それは…」

「迷惑ならあきらめる。好きな子に嫌な思いさせたくないから」

 軽い調子で告白らしき言葉を続ける彼に惑わされる。
 だが、一方で他人事のように会話を聞いている自分がいて、そのもう一人のわたしから疑惑が生まれていた。

 この人は、わたしをからかって遊んでいるんじゃないだろうか?

「すぐ返事してって言わないよ。しばらく俺といて、ずっと傍に居たいと思ってくれたら、ねーさんから告ってくんない?」

「あの…」

「ね、いやになったら離れてってくれていいからさ」

「でも…」

「やっぱ、いや?」

「いや…とかじゃなく…」

 断らなければと頭では解っているが、熱く真っ直ぐに見つめてくる瞳に、感情が柔らかく縛られたように拒否できない。

「じゃ、決まり~。今度デートしようね~。俺といると楽しいよ」

 そう言ってにこにこ笑いがらコーヒーを飲む彼を、釈然としない気持ちのまま見つめた。

 なんなの、この人は…?

 まるで普通の会話のように、好きだと言えてしまう、羽根が付いているのかと疑うほどの言葉の軽さ。告白慣れしているからだろうか。勘ぐりたくなるほど手慣れた自然さだった。

「ん? どうかした?」

 わたしの視線を感じたようで、カップを置いた彼が不思議そうに聞いてくる。

「…なにも…」

「ふ~ん、俺にみとれてた…。とか?」

 こういう自信家なところも、全体的なちゃらさを増長しているのだろう。
 わたしは反射的に鼻で笑ってしまった。

「あれ、違うんだ…。でも…」

 テーブルの上で腕を組んで甘い瞳で見つめてくる彼に、大きく動揺する。

「俺のこと好きになってもらう。覚悟しておいて」

 瞳を取り込まれて視線を離せない。
 いつものちゃらい彼でも、大人の顔の彼でもない別の顔がそこにある。わたしは不思議と胸のあたりが心地よく締め付けられているのを感じていた。