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恋愛小説「極彩パラノイア」6

恋愛マニュアル1

 目の前の燈子の顔が歪んだ。
 彼女は前職場で同期入社だった友人だ。性格も外見も華やかでとても社交的な彼女は、わたしが退職した今もカラオケやコンパ、そして啓発セミナーなどなど、幅広いジャンルの集まりに誘ってくれる。
 とてもありがたいことだが、わたしにとっては興味がないことが多かった。

「今回は断らせないから。睦月だって望んでたことじゃない」

「…それは、まあ」

 にらむように見つめてくる彼女の瞳から、自然と視線を逸らせた。
 今日は土曜日。
 朗報があるからと彼女のマンションに呼ばれたのだが、その内容にいつも以上に乗り気にならなかったわたしに彼女はご立腹のようだった。

「とりあえず、会うだけ会ってみて! 彼氏ほしいんでしょ?」

「う…ん。でも…」

「なに? 他に彼氏ができたとかじゃないんでしょ?」

 足と腕を組んだ体制でソファに深く腰をかけていた彼女は、いらいらと言葉を投げつけてくる。

「それが…」

「…え、なに? もしかして彼氏できたの??」

 黙ったわたしの惑いを感じとったように、目を大きく見開いた彼女はテーブルに乗り出してきた。

「ちが、ちがうよ。彼氏じゃないんだけど、告白されて…」

 笑って誤魔化すわたしを斜めに見上げていた燈子は、予期していた言葉を冷たい視線とともに投げてきた。

「どんな男?」

 怖い!

 彼女はとても快活で面倒見がよく万人に好かれる、さっぱりした竹の割ったような性格が魅力的だ。だが、一方で仲良くなった人間に対して面倒見が異常に良すぎるのだ。度が過ぎるほどおせっかいな部分がある。

「まず、名前は?どこで知り合ったの?」

「え~と…」

  わたしは、図書館で出会った彼のことを伝えようとしたが、名前すら知らないことに気付き、自分でもあきれ返った。

 口ごもった煮え切らないわたしの様子を見て、彼女はさらに気分を害したようで、その後二時間にわたって尋問が続いた。
 そして、わたしは彼女から紹介された男性に強制的に会わされることになった。

 いきなり今日の夜って、強引すぎない??

 燈子に説き伏せられ、〝紹介された男性に会う〟という気の重い状況に追い込まれた。たしかに、彼氏が欲しいと軽く言ったことはあったが言葉のアヤで言ったようなものだ。
 一旦家に帰ったわたしは気が乗らず、もう一度燈子に紹介を断れないかと連絡してみる。
 だが、

〈無理。難しく考えず会いなさい。ドタキャンなんて許さないから〉

 という厳しい返事が返ってきた。
 逃げられないと察すると、自分の部屋のソファに深くもたれて天井を仰ぎ、ため息をついた。

 難しく考えず…ね。

 特定の人がいるわけではないのだから誰と会おうと自由なのだが、やはりハレーション男子のことが頭にちらついた。彼の突然の告白は、予想外のことだったが嫌悪感はなかった。正直なところ、異性として特別に想われることは嬉しいと思う。だが、彼の態度も言葉もあまりに軽くて真実味が薄いことも確かだった。

 先週は図書館の休館日だったこともあって彼とは一週間以上会っていない。図書館に行けば必ず顔を合わせていたことで、さほど気にもならなかったのだが、お互いの名前を知らないうちに告白してくるなど冷静に考えればおかしいのかもしれない。
 燈子に彼のことを詳しく話そうと試みてはみたが、『睦月がからかわれてるに決まってるじゃない』と、聞く耳さえ持たれず冷たく一蹴されて終わった。

 やはり彼女が言うように、わたしは遊ばれているだけかもしれない。
 けれど心の中で、そうではない、と否定したい自分がいることにも気づいていた。