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恋愛小説「天子の法則」11

実証する手段を使っていきましょう7

「分かりました。いいですよ~」

 わたしは素直に頷くと、ドリンクだけ持って鳥居の席に移動する。
 鳥居は、席を変わったついでに他の男性メンバーにも席移動するように薦めていた。この場で空気を読める唯一の男性だ。そしてチェンジした席の隣には三神が座っていた。彼の私服は、やはりいつも着ているスーツのように野暮ったい。良いように言えば一昔前のヒップホッパーのよう?で、だっぷりとした大きめの長Tシャツに、色の浅いジーンズと赤いスニーカー。理解に苦しむ、ありえないスタイルだった。

「席変えしましたんで。よろしくです~」

「…あ、はい」

 相変わらずぼんやりと座っていた三神に、とりあえずの愛想笑いを向けた。
 わたしが隣に座っても、彼にはこれといった反応はない。無言のままグラスを握りなおしてみたり、おしぼりをいじってみたりと退屈そうだ。彼は女性が苦手らしいと聞いたことはあったが、苦手というよりは興味がないのかもしれない。

「三神さん、最近はお仕事忙しいんですか?」

 トークで少しでもこの空気を変えようと話題を振ってみる。

「…え、あ。はい…」

 全くこちらを見ずに答える彼。
 俯いてナプキンの端をいじりながら髪で顔を隠すような態度に、会話への参加の気持ちが見えてこない。

「三神さんて、彼女いないんですか?」

「あ、まあ。そうですね…」

 まあそうですね?
 言葉の使い方が間違っている気もしなくもないが、さらりと流して次の質問に移る。

「そうなんですか~。じゃあ、好きなタイプは? 芸能人とかで言ったらどういう人ですか?」

「ぇ…芸能人って知らないんで…。あ、すみません、ちょっと…」

 三神は会話を終わらせるように立ち上がると、猫背気味にトイレの方向へと歩いていった。

 え…? わたし、思いっきり避けられた??

「あれえ、牧さん、三神を苛めたんじゃないの?」

 鳥居が、にやにやと笑ってわたしをからかってきた。

「やだ、全然。だって好きな子のタイプ聞いただけだもの」

「あやしいなあ。だめだよ、苛めちゃ」

 にっこり笑う鳥居のさわやかな表情を見ると、よどんだ何かが浄化されていく気分になる。
 だが、彼は周りを盛り上げることに忙しく、今わたしに話しかけていたかと思えば、もう別の男性にビールを注いでいる。この場だけでも彼を独り占めしたい気分だったが、それはかなわなかった。

 ああ、このまま帰りたい…。

 強く願いつつ、目の前のワインのボトルに手を伸ばし、自分でグラスに注いだ。

「僕が注いであげるよ」

 いきなり、空いた三神の席移動してきたバックパッカーのひげ面が、わたしからボトルを奪って、ワインを勢いよくグラスに注いでくる。

「どうぞ。牧さんだっけ、これ、イッキしちゃお!このへんでみんなを盛り上げてよ!」

 一人で妙に盛り上がってる彼は〝はい、イッキー!〟と言いながら、わたしをけしかけるように、手拍子しはじめた。
 学生コンパじゃあるまいし、アルコールの一気が危険なことくらい、大人なら分かっているはずだ。常識知らずにも程がある。

「いや~ん、ごめんなさい~。無理ですう~」

 少し首をかしげて、上目遣いに困ったように呟いてみせた。
 こうすれば、大概の普通の男性なら、諦めてくれるものだが…。

「大丈夫大丈夫! 牧さんて、この中で一番肉付きよさそうだし、男前で酒も強そうじゃん。飲めるって! ほら、イッキー!」

 は? 肉付きがいい? 男前? てっめえ、殺すぞ!!

 という内心を、とりあえずぐぐっと治めて、

「でも…やっぱり無理~」

 と愛想笑いしてみたが、全く彼には通じない。
 掛け声をやめようとしないバックパッカーに困り果てたわたしは、鳥居に助けを求めようとしたが、彼はトイレに立っているのか席にはいなかった。