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恋愛小説「天子の法則」13

実証する手段を使っていきましょう9

「あ、牧さん、三神は弱いからあまり飲まさないであげて。すぐ気分悪くなるんだ」

 いきなり鳥居が、少し心配そうな表情で声をかけてくる。

「はい。じゃあ、少しだけね」

 鳥居に素直な返事と笑顔を返したわたしは、再び三神に視線を戻す。
 わたしが見ているのは、常に彼の横顔。しかも、ほとんど髪で隠れてしまっていて表情すら分からない。
人と話すときは相手の顔を見て。って、習わなかったのだろうか?

 全く! どいつもこいつも、常識すらない!

 こうなったら一人で呑んだくれてやろうとボトルを手に取ってグラスに注ぎながら、ふと、あることに気付いた。

 ちょっと待って。まだ、マシ?かも?

 隣で、肩身せまそうに小さくなって座っている三神に視線を投げる。
 鳥居は除外するとして、他のここにいる男子面子に比べれば、三神は数段に扱いやすそうだ。じっと大人しく座っている三神を舐めるようにして見つめ、ある答えを導き出した。
 結婚は生活。扱いやすい男を夫にしたほうが後々が楽に決まっている。冴えない見た目は我慢するとして、お金持ちで自分の思い通りになりそうな相手なら。犬のように言うことを聞く男なら。
 心の中で舌舐めずりをしたわたしは、グラスにたっぷりと注いだワインを、三神のグラスと交換した。

「…ねえ三神さん、営業さんなんだから、ワインくらい呑めないと。ねっ」

 目を合わせない三神を覗き込んで、両上腕で自分のふくよかな胸を挟むようにして強調させた。
 酔った頭ながらも、今回のターゲットを決定したのだ。

 イタリア料理店を出て、二次会のカラオケに残ったメンバーは、鳥居と三神そして朋美とわたしの4人だけだった。
 とはいえ、鳥居と朋美は酔っていたわたしと、わたしが捕まえて離そうとしない三神を心配して残ったようだが…。正直、かなりのほろ酔いだったわたしは、カラオケBOXに入ってからもビールを飲み続け、アルコールが足に来るまでになっていた。だが、それくらい呑まないと、自分の計画を実行する気持ちになれなかったのだ。

「さあ、そろそろ帰ろうか」

 いつの間にか時間は終電ぎりぎりとなっていた。
 鳥居のその言葉を耳にして、ここからが勝負とばかりに気合を入れなおした。

「え~、もう帰るの? まだ呑んで歌いたいな~。ね、三神さん」

 ずっと三神の隣の席で、しかも彼に身体の側面を密着させるように座っていたわたしは、甘えた声で同意を求める。

「…え、あ、もうでも遅いんで…。帰りましょう」

 三神は相変わらず逃げ腰な態度で、べったり横にくっついていたわたしから身体を離すと、すかさず一人で立ち上がって距離をとった。
 今日、彼にはワインやビールをかなり呑ませていると思うが、案外アルコールに強いのか付け入る隙が見えてこない。

 くっそ! こうなったら…。

 部屋を出ていく他のメンバーの後に続いたわたしは、トイレに行くと告げて、個室の中で化粧直しをしながら時間を潰した。
どうしても時間をかせぎたい。
 幸いなことに、わたしの家は三神と同じ方向だ。うまくいけば終電を逃し、二人きりになるチャンスができるかもしれない。
どうにかして、彼との関係を進展させたくて躍起になっている自分がいることが不思議だった。好きでもない相手にどうしてこんなに燃えるのだろうか。
 きっと、アルコールの力が大きいのだろう。とにかく、あんな冴えない男に全く異性として見られていないなんて、女が廃るのだ。
〝お金持ちとの結婚〟という目的から少しはずれ、女としてのメンツを賭けた行動になっている自分がいた。