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恋愛小説「天子の法則」14

実証する手段を使っていきましょう10

 10分経過─

「よっしゃ!」

 ガッツポーズで個室から外へ出る。
 どんなに急いでも、すでに終電には間に合わない時間だった。カラオケの正面ウィンドウの外で待っている三神の姿を見つけて、小走りに急ぐふりをする。

「ごめんなさい~。少し気分わるくて…。あれれ、鳥居さんと朋美ちゃんはあ?」

 外に出ると、他の二人の姿がなかった。
 わたしは心の目をキラリと光らせる。これは、思ったよりも簡単にことが運ぶかもしれない。

「…あ、終電に間に合うように…帰りました。鳥居さんに、僕は牧さんと同じ方向だから一緒に帰れと言われて…」

「え~、ほんとですかあ? ごめんなさい遅くなって。じゃあ、お言葉に甘えて送ってもらっていいですか? …って、え…待って!」

 わたしが高い甘えた声を出している間に、三神はさっさと歩き出していた。
 なんだろう、いつもよりも歩くスピードが速い。やはり確実に避けられているのだろうか。

 逃がすか!!

 小走りに三神に追いつくと、その腕を掴んでぎゅっと抱きしめる。
 驚いたような反応を見せた三神は、足を止めてわたしを見下ろした。

「三神さん、はやい。ゆっくり、ねっ」

 上目使いに見上げて甘く囁いてみたのはいいが、周りは暗いし眼鏡が邪魔だしで、相変わらず三神の表情は分からない。
 だが、思い切り彼の腕をこの豊満な胸に当てているのだから、ドキドキしているに違いなかった。

 よし、ここでもう一押し。

「かなり酔っちゃってるみたい…」

 嘘ではない。
 実際に酔ってはいたのだが、わざと隙を見せるように大げさに足をふらつかせ、寄り添ってみせる。
 三神は、ぎこちなく空いているほうの手を、わたしの肩に乗せた。

 よし、来いーーっ!!

「すみません…。歩きづらいんで」

「??」

 一瞬、ぼそっと低く呟いた声の意味が理解できずに耳を疑った。
 彼はわたしの肩を押し、腕を抜き取るようにして引くと、再び歩き出す。

 えーーー!! なに??お色気酔っ払い作戦が有効化されない!

 このふくよかなバストに何も感じない男ははじめてだった。

 法則を実証する手段その3。

「男=おっぱいには勝てない生き物。存分に利用しろ」

 わたしの手段を無視するように大きな通りまで無言で歩いた彼は道路脇でタクシーを探している。

 ここで引いてたまるものか!

「三神さん~、ねえ、酔ってるからタクシー乗ると気分悪くなりそう~。ちょっと時間潰しに、お茶でも付き合ってほしいな~」

 三神に近付いて、意味深に手を握ってみる。
 やはり彼の表情は、眼鏡に車のライトが反射してよく分からない。いっそのこと眼鏡を取って確認してやりたくなったその時、わたしが握った手に微かな反応の兆しが見えた。

「空車きました…」

 三神は、わたしが握った手を払って、タクシーに向かって手を上げている。
 反応したように見えたのは、空車を見つけたからのようだ。誘いを軽く無視されたわたしは、自分の中でそれなりにあった女としての自信が半減する。