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恋愛小説「天子の法則」15

実証する手段を使っていきましょう11

 車を止めた三神は、レディーファーストという行為も知らないようで、さっさと先に乗り込んだ。

 どうすればいい??

 このままでは、獲物を逃してしまう。
 しかも、パッとしないオタク枠の獲物なのに、悪戦苦闘させられているのはどうしてだろう。とりあえず三神に続いてタクシーに乗り、擦り寄るように隣に座ってみたが、彼はわたしのほうを見ずにシートに凭れて開けた窓から外を眺めていた。

 …なんだろう、この違和感

 もしかするとワインを飲ませたせいで、かなり酔っていて気分が冴えないのかもしれない。
 さっきからずっと外を見て動かないのも、そのせいだろう。彼独特の挙動不審な動きが消え、全体的にかったるそうだった。

「三神さん、もしかしてすごく酔ってるの~? 気分わるいとか?」

 隙だらけの振りで、彼の顔を覗きこんでみたが、

「酔ってます…」

 と、こちらに目を向けることすらせずに、だるそうに答えてきた。

 やっぱり酔ってるんだ。ということは…。

 わたしは、自分が酔って誘って三神をモノにしちゃおうと立てていた計画の変更をせざるを得なくなる。
 彼の酔いに付け込んで、家に押しかけちゃおう作戦へと。確か、三神は一人暮らしだと朋美から聞いたことがあった。
 試しに全身で三神に凭れかかってみたが、やはり全く反応はなく、予想以上に気分が悪いのかもしれない。

 よし、計画変更!

 タクシーは、このまま進むと三神の家に先に着くはずだ。気の利かない彼のことだから、わたしを先に送るなんてことはしないだろう。三神のマンションに着いたら、こっちも気分が悪い振りでもして、どさくさに紛れて一緒に降りてしまえばいい。
 彼に凭れながら自分の次の行動をシュミレーションをしていたわたしは、ふと、窓の外に視線を向けていた三神の横顔を見つめた。
 窓から吹き込んでくる風が彼の長い前髪を揺らせ、時折はっきりと顔のラインが見える。よく見ると、鼻はすっと高く、わずかにふっくらとした唇はセクシーな形をしていた。

 …あら?

 ど近眼眼鏡が邪魔で目の形ははっきり分からないが、そう不細工ではなさそうだ。
 
ボサボサの髪型やトータル的にダサい服装、そしておタクっぽい動作が目につくだけで、素材は悪くないのかもしれない。

 ふ~ん、まあ、そこそこイケるんじゃない?

 意外に、彼の見栄えが悪くないことに気付く。磨けば、それなりに人並にはなるかもしれない。

「…あ、その角で止めてください…」

 運転手に呟いた彼の言葉で、マンションに近い通りに着いたことが分かった。
 支払いをした彼は、「牧さんの分は払ってますんで」と、引き止める暇もなく素っ気ない態度で車から降りていく。

「三神さん、待って」

 急いで車を降りたわたしは、足早に彼の前に回りこんで熱い視線で見上げた。

 法則を実証する手段その4。

『鈍感な男には酔ったふりして強引に押し倒せ』

「わたしもかなり酔ってるの…。少し三神さんのマンションで休みたい…」

 ここまではっきりと言えば、どんな鈍感無反応男でも自分が誘われていることに気付くだろう。

「…」

 数秒、何か考えているような様子だった三神は、無言でわたしの上腕を柔らかく掴んでくる。

「牧さん…」

 来たー!!

 このまま彼のマンションに入れば、ほぼ90パーセントは成功したようなもの。
 あとは成り行きに任せて、二人の関係を進めてしまおう!

「酔ってるんだね…。それなら…」

 優しい口調で、珍しく気遣うように呟く彼。
 きっと、わたしの誘いで鈍感な彼にもやっとスイッチが入ったのだろう。〝僕の家で休みましょう〟という言葉を期待しつつ、瞳を潤ませて三神の眼鏡を見つめた。

「…行きましょうか」

 そう言っておもむろにわたしの腕を引っぱった彼は、なぜかマンションとは逆の方向のタクシーへと戻っていく。

「え、ちょっと、なに? わたし…あなたのマンションへ…」

 思いの外強い力で引きずられ、容赦なくタクシーのバックシートに手荒く放り込まれた。
 勢いで頭からシートに突っ伏してしまい、何が起こったのか理解できずに自失する。そんなわたしの耳に、後ろからドアが閉まる音と低い声が聞こえた。

「さっさと帰りやがれ」

 我に返り、咄嗟に起きあがって三神を探すが、すでに背を向けて去っていく彼の姿が見えた。

 え? え? ええええーーーーーっ!!!!

 タクシーの窓にへばりつき、三神を背中を見つめる。

 えーーーーーっ????

 彼の姿が見えなくなるまで、しばらく呆然としていたわたしに、タクシーの運転手が、「お客さん、大丈夫?どこまで行きますか?」と、気遣うように聞いてきた。仕方なく小声で行き先を告げて、まだ酔っている頭の中を整理しはじめた。
 あれほど誘っても何の反応もないなんて、三神はかなり酔っていて気分がすぐれなかったに違いない。それに、あまりにも激変わりした彼の態度も、きっとアルコールのせいに違いない。酔うと人格が変わるに違いない。
 わたしに魅力がなかったなんてことは絶対にない!に違いない!!

 いや…、というか、でも、わたしって一体…。

 これまでなんとかギリギリ保っていたはずの〝女〟としての自信が、ものの見事に崩れていった。