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恋愛小説「天子の法則」20

思いどおりにならなくてこそ人生5

「じゃあ、本当に天子ちゃんは三神さんとは何もなかったのね?」

 まだ疑った眼差しを向けてくる朋美に、わたしは大きく頷いた。

「ないない。三神さんと何かあるわけないでしょ。なんなら朋美ちゃんに協力してあげてもいいくらいだよ」

 冗談でそう言って笑い飛ばしてみせたが、朋美は一瞬目が覚めたような明るい顔つきになった。

「本当?? 天子ちゃん、協力してくれるの?」

 いやいや、冗談だって!!

 そういう言葉が返ってくるとは予期していなかった。自分の恋愛もままならないというのに、他人の恋路の手助けをしているほどわたしはお人よしではない。

「あ、いや、そういう気持ちがあるくらい、彼とはなにもないってこと」

「分かった。じゃあ、応援してね!こんなこと天子ちゃんにしか話せないことだったから。誰かが味方になってくれれば心強いの。また相談に乗ってもらっていい?」

 上目遣いにすがる瞳を向けてくる朋美に、「ん、わかった」と、適当な作り笑顔でごまかした。
 どういうワケか話の流れに呑まれ、彼女の恋を応援しなくてはいけない雰囲気になっている。

「嬉しい! 良かった~。わたし、ほんとは天子ちゃんが三神さんを好きになってるんじゃないかって気掛かりだったの。話を聞いてくれるだけでいいから、よろしくお願いします」

 座ったまま深々と頭を下げてくる朋美を見つめ、ひきつった笑みを浮かべる。
 奇妙な罪悪感と、面倒だという気持ちが混ざり合ってとても心地悪い。目の前でほっとしたような笑顔を浮かべている朋美を見て、いい人の振りをした自分自身に呆れかえってしまった。

 他人の恋愛の応援など、している場合ではないというのに…。

 カフェから出て銀行に行った朋美と別れ、どこか府に落ちない気分で会社に戻る。
 廊下に設置されている休憩スペースで、三神が窓から外を眺めて一人でぼんやりと立っているのが見えた。今は三神の姿を見るだけで気が重くなる。さっさと通り過ぎて営業部に向かおうとしたとき、いきなり彼が窓に片手をついて苦しそうに前かがみに身体を丸めた。
 驚いたわたしは見て見ぬふりもできず、おそるおそる彼に近付いて顔を覗きこむ。

「三神さん? どうかしました?」

 頭を下げて痛みに堪えているような体制を作る彼は、小さく頷いて、「大丈夫…ですから」と顔を背けてきた。

「…でも」

 確実に顔色が悪い。
 どこかが痛むのだろうか、下を向いたままぴくりともしなかった。

「牧さん!!」

 わたしが三神の傍に屈もうとしたとき、いきなり後ろから鳥居の声が聞こえた。
 振り向くと走り寄ってくる彼の姿が見え、急いで三神との間に割って入ってくる。

「牧さんは仕事に戻って。こいつ、今日腹の調子悪いだけだから。仕方ないやつだな。一人でトイレも行けないのか」

 鳥居はそう言っていつもの爽やかな笑顔を向けてくると、素早く三神の脇を持って抱えた。彼の苦し気な表情が気掛かりだったわたしに、鳥居は「心配いらないよ」と一言残し、三神を連れて男性トイレへと向かっていく。
 三神の様子を見るとただの腹痛だとは思えなかったのだが、彼のことを良く知る鳥居がついていれば安心だろう。わたしは営業部にある自分の席に戻り、自然と溜息が出たことに気付いた。

 腹痛って…。本当に大丈夫なのだろうか…。

 それにしても朋美ちゃんはあの三神さんが好きだったんだ…。

 わたしが三神を落とそうとしたのは、彼の将来や経済的な部分が安定していたからであって、朋美のように好きという感情からではない。もし、この先朋美と三神がうまくいったとしても、然して気持ちに揺らぎはないだろう。

 分かっているはずなのに、なぜか気持ちが晴れずにいる自分に気付いていた。