にほんブログ村 小説ブログ 人気ブログランキングへ

恋愛小説「天子の法則」5

実証する手段を使っていきましょう1

 もはやわたしの生活は婚活モード一色なのだが、最近は不安になることも多々あった。長〜い冬が続き、春がやってくる気配が見えない。
 努力は惜しんでいないはずだ。エステや料理教室に通い、どんな寒い時期でもスカートを履いているし、ふんわりとした男性受けのするセミロングの髪型にして、化粧も薄めを心がけている。
 だが残念なことに、容姿がごくごく普通なわたしは、所詮それだけではただの地味な女になってしまうのだ。だから今は、男を引きつける仕草や色気を学ぼうと、ベリーダンスなどをしているのだが…。

『女はある程度はお馬鹿で従順、そして、〝あなたがいないと駄目なの〟的な振りをしろ』

 これはわたしの法則を実証する手段その1。
 8割の日本人の男を落とせる手段だと自負している。
 だがどうしてだろう、頭では解ってはいるがそういう女の振りを仕切れない。そこに勉強の足りなさが出るのだろう。
やはり女として高度なしたたかさがなければ、金持ちの男を捕まえることなどできないということだ。
 そんな今までの反省やこれからの抱負を考えながら、今日も仕事中に周りの目を盗んでインターネットで「男を落とす方法」を検索していた。

「牧さん、これお願いします」

 前から紙袋を持った女子社員が近付いてきた。
 にっこりとした笑顔で紙袋を渡されたわたしは、中を覗いて愛想笑いを返す。

「分かりました。クリーニングですね」

 そう言いながら自分の席を立つと、紙袋と外出用の小さな鞄を持って営業の部署を離れる。
 わたしの仕事は社員の事務補助。まあ、結局は雑用係ということだ。仕事の内容的には一般事務職のあたりに席があって当然なのだが、空いている机が営業部の端の席しかなかった。そう、営業部といえばオーナー社長の息子が居るはずの部署。
 初日は嬉しくて小躍りしたほどだったが、その天国にも昇るかのような幸福な気分は、すぐにあっけなく消滅することになったのだ。

 クリーニング店に向かうため、テナントビル15階のフロアからエレベーターで1階に降り、エントランスに向かっていると、前から歩いてくるスーツ姿の二人組に気付く。

「牧さん、お疲れ様です!」

 その右側の人物が、にこやかに元気で溌剌とした挨拶をかけてくる。

「あ、鳥居さん、お疲れ様です。ごくろうさまです」

 わたしは気持ちのいい挨拶に、とびきりの笑顔を返した。
 彼は同じ会社の営業部社員。その中でも成績優秀で女子社員にもダントツの人気を誇る鳥居和人。さわやかなルックスに長身プラスお洒落、そして今年28歳という結婚適齢期。だが、彼には長年連れ添っている彼女がいるそうだ。最も残念なのは、この会社の社員ということで、大した年収ではないはず。
 わたしにとっては、もう少し甲斐性が欲しいところだった。

「お…疲れさまです…」

 小さな声が耳をかすめた。
 鳥居の隣に居た人物が、やっと聞き取れるほどの小声で挨拶をしてきた。とりあえず笑顔をつくって頭を下げる。彼は三神宝世。鳥居とは正反対の、どこかぼんやりとして、おどおどとしたオタクタイプ。いつもどこで買ったのか聞きたいほど、もさっとしたスーツを着ている。ボブと呼んでいいのか分からないぼさぼさの髪は、目にかかるほどの長い前髪がうっとうしい。さらに度の強い黒淵眼鏡をかけていて、猫背気味に内股で歩く姿にもイラっとさせられる。
 とにかく、見た目も性格もありえないほど問題外の彼なのだが、なぜか鳥居よりも営業成績がいい。社内では、声も小さく滑舌もよくない彼が仕事を取れるのは、一重に親のおかげだろうと噂されていた。
 そう、彼こそ、この会社のオーナー兼社長の息子だった。
 初日にはじめて彼を目にした時、派遣会社のコーディネーターのほくそ笑む顔が目に浮かんだ。あの雌ブタ野郎!と、つい心の中でお下品に罵倒してしまったが、彼女のあからさまな誘いに乗ってしまったわたしが浅はかだったのだろう。

「あ~あ…、ついてない」

 エントランスからビルの外に出たわたしは、大きなため息をついた。
 ビルのウィンドウに自分の冴えない顔が映り、これではいけないと背筋を伸ばす。社内だけが出逢いの場ではない。こうして外を歩いている時にも、ひょんなところでいい男との出逢いがあるかもしれないのだ。気合いを入れなおしたが、やはりテンションは上がらず、つい重い足取りになってしまった。