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恋愛小説「天子の法則」7

実証する手段を使っていきましょう3

 3月も終わろうとしていた平日の夜。
 オリエンタルな曲が流れ、水煙草の煙があちこちから立ちこめている空間にいる。
 絨毯が敷かれた上に、ローテーブルとローソファを置いた客席が、東洋らしさを醸し出していた。ほぼ満席に近い状態の店内は、90パーセントが若い女性で埋まっていた。
 ここは、ベリーダンスの講師が出演するイベント場のトルコ料理店。講師に「見に来てね」と誘われれば、生徒の身としては断るわけにもいかない。いわゆる、お付き合いで来たイベントだった。

「平日の夜なのに客多いね。この人達って、ほぼ今日出演するダンサーさん達の知り合いよね?ベリー関係だよね?」

 隣で水煙草を吸って甘い香を漂わせていた瑞穂に耳打ちする。

「そりゃそうでしょ。まさか一見さんは来ないんじゃない?」

 瑞穂は、周りの席に座っている女子達を見て苦笑いした。
 みんな、判子で押したかのように、真っ直ぐで長い黒髪。そして、少しエスニック風のものを取り入れた服装で〝ベリーダンスしてますよ〟と宣言しているような出で立ちの彼女たち。

「みんな仕事が終わってから来てるんだよね。気合い入ってるよね」

「ベリーが好きなんでしょ。男探しの道具としてベリーをしてる天子には、こんなイベントは面倒なだけだろうけど」

 瑞穂は茶化すような顔をこちらに向けてきた。

「えー、そういう瑞穂だって、ベリーの他にいろんなダンスしてるじゃない。正直なところ、ベリーはつまみ食いなんでしょ?」

「…そんなこと、ないよ」

 わたしの追及に少し言葉を詰まらせた彼女は、誤魔化すように水煙草に口をつけた。

「あ、はじまったかな」

 急に照明が暗くなり、ステージに光が当たる。
 ステージとは名前ばかりの簡易な壇上場で音響も良くはない。だが、躍りながら席の間を通ってステージに表れたダンサーに、周りの客は大きな歓声をあげている。
 軽快な曲で、露出度の多いキラキラの衣装を着て踊っているダンサーを見て、少し引きながらも手拍子を打っていた。

「天子、もっと楽しそうにしなさいよ」

「え、楽しそうに見えない?」

「全然。仕方なく手拍子してるって感じ」

 こそこそと耳元で囁いてくる瑞穂。

「だって…。やっぱり興味ないんだよね…。ダンスって」

「なに言ってんの。小さい頃にバレエしてたんじゃないの?」

 瑞穂の言葉に、自分がバレエをしていたことを思い出した。
 とは言っても小学生の頃の話で、親に無理矢理バレエ教室に通わされていただけだ。別にダンスが嫌いなわけではないのだが、踊りたいという興味をそそられず、瑞穂が言うようにわたしにとってのベリーダンスは男探しの道具でしかなかった。

「あ、先生だ」

 二人目にステージに表れたのは、わたしたちの講師だった。
 アップテンポな曲に乗りながら、ふくよか気味の彼女は、たわわな胸を揺らせてセクシーなキスを投げてきた。
 確かに可愛い?とは思うのだが…。色っぽいというよりは、ちょっと滑稽。に見えてしまう。

「だめだなあ…。素直に可愛いとだけ思っていたいのに…つい粗探ししちゃう」

 ため息とともにうな垂れて呟いた。

「…まあ、仕方ないんじゃない? 天子はベリーが好きじゃないからね」

「うん。あ、それよりさ、会社の人とコンパすることになったんだ。瑞穂も来ない?」

 踊っている最中の講師には失礼かと思いながらも、ダンスを見ることに飽きていたわたしは、瑞穂にコンパの誘いをかける。