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恋愛小説「天子の法則」8

実証する手段を使っていきましょう4

「ごめん、興味ない」

 即断されてしまい、取り入る隙すらなかった。
 興味深気にダンスを眺めていた瑞穂を見て、少し羨ましく感じる。わたしに、わずかでもダンスに対する情熱があれば、もっとこの場を楽しめただろう。時間の経過とともに、どんどん盛り上がりは大きくなってくる。ダンサー達や店にいる客が感情をたかぶらせるほど、取り残された気分になっていった。

 楽しさが分からない…。

 所在無さに、この場所に居ることが辛くなってくる。アルコールの力を借りて、落ちていくテンションをごまかそうと、スタッフにビールの追加注文をした。

「天子、飲みすぎじゃない?」

 ダンサーの入れ替わりの合間、心配そうに聞いてきた瑞穂に、ほろ酔いになった頭を縦に振った。

「あと一人。最後はまあちょっと他とは違うダンサーだからさ、天子も楽しもうよ」

 ちょっと違うって言われても、また同じような髪型で同じようなダンサーが出てくるのだろう。
 全く期待せずにトルコ産ビールの瓶にそのまま口を付けていると、これまでの軽快なオリエンタル調の音楽は消え、機械音のような無機質な音が静かに流れてきた。
 空気の流れが変わり、店内に異様な緊張感が漂い、時折聞こえていた女子達のため息にも似た黄色い声が途切れる。

 何?

 異様な静けさに、客達の期待度がうかがえた。
 客席よりゆっくりとうごめくように移動してくる、光沢のある黒い布。大きな幼虫のように見えるグロテスクな艶に、否応なしに目を奪われる。その布の中には人が入っているとは分かっているのだが、奇天烈とも言える動きが周りの視線を釘付けにしていた。

「…瑞穂、あの…」

「しっ」

 ダンサーの名前を聞こうとしたが、彼女は口を塞げとばかりに唇の前に指を立ててくる。
 仕方なく黙ってステージまでうごめいていくその虫に目を向けていたが、音が消えるとともに、その物体はぴくりともしなくなった。

数秒の静寂。

 そして、ゆっくりと虫の背中が割れ、生まれたての蝶が這い出てきたかのごとく、その悠然たる姿を見せた。
同時に、うねるような低音で曲が流れ、店内がダークな世界に落とされる。
 鈍い照明の光の中でも煌びやかな蛾。確実に蝶ではない。地を這う重さがある、蝶だった。
それは、流れる音には影響されず、怪しく滑らかな動きを見せていた。

「これ…なに? ベリーじゃないんじゃ?」

 踊り続けているダンサーを見つめながら自然と一人で呟いてしまう。
 緩くウェーブした長い髪をラフにまとめて、引き締まった上半身に薄い布を巻きつけ、腰で履いている巻スカートを見ると、まるで観音像を思い出す。アクセサリーなど一切身につけていない。照明もダークなままなのに、その存在だけで惹き付けられた。